2011年5月16日月曜日

スタイリッシュ!

奥泉光が、しかも文藝春秋から、こんなスタイリッシュな本を出した。その名も:

奥泉光『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(文藝春秋、2011)

桑潟幸一だクワコーだ。『モーダルな事象』の主人公。あの関西のぱっとしない女子大のばっとしない日本文学部のうだつの上がらない助教授(当時)が、こんどは千葉のたらちね国際大学という、乳房を象った校章をもつ、これまた負けず劣らずぱっとしない大学に移り、そこの文芸部の不思議な女の子たち(いちおう、この表紙の絵に描き込まれているのがその中心人物ふたり)と繰り広げる推理。

本格ミステリーというよりは、ミステリー仕立てのコメディ学園小説、といった感じ。3つの短編からなり、なにしろスピンオフものなので、まだミステリーとして読み応えのあった『モダールな事象』よりは軽い感じ。肩の力が抜けていて、読んでいて面白い。

3つの短編のうち最初の「呪われた研究室」を電車の中で読んだ。クワコーがたらちねに移った先で割り当てられた研究室が409で、ここには幽霊がでるとか、ここに入った教員が必ずおかしなことになるとか、そんな噂が持ちきりである。文芸部の学生たちも、ここをミステリー同人誌の共通テーマにしようとして嗅ぎ回っている。この部屋の謎が文芸部員ジンジンこと神野仁美によって解かれる、という話。

ミステリではなく、学園ものだ。大学ものだ。昨今の少子化、全入時代の厳しい競争にさらされる私立大学の悲哀などを自虐的に書いていて、笑えるし身につまされるのだ。大学生の会話や若い教員の発話など、これがあの『石の来歴』の重厚にして流麗なる文体の主かと疑うほどに軽妙で面白い。「桑幸より五つ年下で、短大時代からたらちねで日本語学を講じてきた」坊屋准教授なる人物は、「茶色に染めたさらさらの髪とジーンズにパーカーという服装」なのだそうだが、彼の発話など、電車の中で読んでいてげらげらと笑ってしまった。こうだ。

「しかも学生数が読みより大幅に少ない、少ない。新入生、いきなりの定員割れ! 五割に満たず! って、なんかダメっスよね。一年目で立ち上げが遅かったからしょうがない面はあると、上は自らを慰めているんだと思うんスけど、アマ〜イ。甘すぎ。せっかく共学を看板に掲げたってのに、来た男子は結局一名、オンリーワン。ナンバーワンにならなくても、つったって、オンリーワンじゃマズいっしょ、やっぱ。たらちねってネーミングがねえ。いまどきないっスよね。逆にありかもって、一瞬は思ったけど、やっぱなし。結局はなし。変えようって話はちょっとあり。でも、いまさら変えてもきっとダメっスよね。カンペキ手遅れ状態、もはやとりかえしつかず」(28ページ)

こんな人々につられて、クワコーもだいぶいじけた性格が進行している模様。わらっちゃう。でも、この表紙の自転車にまたがるこの人物がひょっとして彼なのか? だとすれば、これはすごいぞ。