2011年8月29日月曜日

今日は焼き肉の日?

焼き肉の日、なのだそうだが、焼き肉など食べていない。歯医者、皮膚科医、学生の書類に署名捺印……そして映画に行ってきた。

アレハンドロ・ゴンサレス=イニャリトゥ『ビューティフル』(スペイン/メキシコ、2010)

離婚して子供アナとマテオを引き取っているウスバル(ハビエル・バルデム)が、前立腺ガンで肝臓にも転移があって2ヶ月くらいしか生きられないとの宣告を受けて、死ぬ準備をする物語。といっても、単純な「死ぬ準備」の物語ではない。むしろ、大切な人には言えないまま、否応なしに死んでいく物語。周囲もそれに合わせるように崩壊していく。

重要なのは、ウスバルがセネガルや中国からの移民のインフォーマル経済の元締めみたいな仕事をしているということと、彼が死体のメッセージを聞き取ることのできる特殊能力を有していること。前者の要素が物語を一気にカタストロフへと導き、後者の要素がストーリーに短編小説のような謎を付与し、いくつかのセリフの対応が生きてくる。

ゴンサレス=イニャリトゥは、ギジェルモ・アリアガと組んで、3つの相異なるストーリーがやがて絡み合っていく話を作ってきた人物。アリアガと決別して彼が選んだストーリーの作法が、ひとつのプロットにこうした三重の意味合いを持たせて深みを出すことだったというわけだろう。

彼がかかわっている移民のうち、セネガルからの住民たちは、禁止区域で商売するばかりか、薬物まで扱っているらしい。ウスバル自身も薬物使用経験があることがほのめかされているし、別れた妻マランブラ(マリセル・アルバレス)は双極性人格障害(つまり、躁鬱病)で入院経験があり、ときおりDVにも及ぶ。問題ありな人ばかりだ。ウスバルは警察に賄賂を渡してセネガル人たちを大目に見るようにと頼んでいるのだが、ついには検挙、集団強制退去にいたり、ボス格の人物の妻イベ(ディアリアトゥ・ダフ)を引き取ることになる。一方、中国人たちは建設現場に無理矢理送り込んで働かせるのだけど、気遣いからプレゼントしたストーブによって集団一酸化炭素中毒、25人もが死んでしまう……もうカタストロフに向けて一直線だ。つらい。

前立腺のガンだから何度かウスバルは何度か失禁するのだが、しまいには大人用紙おむつまでして、いたたまれない。ゴンサレス=イニャリトゥの映画は、いつもながら、つらいなあ。

ところで、映画とは関係ないのだが、ちょっと気になったこと:冒頭近く、雪山でハビエル・バルデムが若者と言葉を交わすシーンがある。後に繰り返されて、その意味がわかるこのシーン、ふくろうの死体を見つめるバルデムに、若者がタバコを吸いながら話しかけてくる。ひとしきり言葉を交わした後、ふたりは打ち解ける。打ち解けたしるしに、握手なんかしたらいやだな、と思っていたら、そんなことはせず、若者がバルデムにタバコを勧めた。バルデムは受け取って火をつける。うん。これでいいんだ、と思った。思ったはいいが、ところで、ますますタバコを吸うシーンに厳しくなる昨今だ。これから先はこのつくりは難しくなるだろう。では、代わりにどんな行動があり得るのだろうか? ふたりの初対面らしい人物が打ち解け、握手でなしに、その打ち解けたことを示す動作……?

ま、なんでもあるか。ぼくが考えることではない。ストーリーテラーたちに考えてもらえばいいことだ。