以前、留学中に通い詰めていた作家アルフォンソ・レイェスの個人古文書館Capilla Alfonsinaに出向き、拙著『ラテンアメリカ主義のレトリック』を献呈してきた。そこで参照した未刊の手紙などを引用しているのだから、当然と言えば当然の礼儀。実際にはそんな気遣いなどすっかり忘れていて、出発直前になってから思い立って本を抱えてきた次第。
そんな次第なのでアポも取らずに行った。一般の訪問を受け付けているのだから、行けば入れる。門衛に説明し、訪問記録を残し、係の人が出てきたので説明し、献呈した。アテンドしたのは、ぼくが通っているころにいた職員とは違う人物のはず。すっかり忘れていたが、今年はレイェス生誕120年、没後50年の年で、きりのいい時期なのだった。いろいろな催しを予定しているのだよ、とその人。うーむ。主にメキシコ市での話だ……顔を出せるといいね……
ぼくがこの施設に通っていた頃、すぐ近くにはBELLA EPOCAという映画館があった。ファサードの曲面と尖塔が印象的な建物だった。建物はそのままに、そこはCENTRO CULTURAL BELLA EPOCAという文化コンプレックスに変わっていた。FCE直営のロサリオ・カステリャーノス書店とリド映画館、それに展示室。
……ロサリオ・カステリャーノス書店?
昨日飛行機に乗り合わせたKさんが言っていたのだった。ふたりの共通の知人に、この名の書店がいいと勧められたのだとか。共通の知人というのは、この書店に名を与えた人物を研究対象としている。
ここのことかな? ここのことであろうがなかろうが、ともかく、入ってみよう。店員にいくつか質問した際のその対応の早さと的確さ、知識に感心した。段差があるワンフロアに回廊形式の、というより、足場のような2階があるだけではあるが、メキシコの本屋としては十分大きい。カフェを備え、別個いくつものソファで読書もできる造り、映画館もあり、展示スペースにはなにやら不思議なものがぶら下がっている。なるほど、なかなかいい。
そして実際、言及されていたのはここだった。Kさんが現れたから確認できたのだ。ぼくはたっぷり買い込んだ本を送ってもらうための手続きで奥の事務室に引き込み、結局挨拶しただけに終わったが。