2009年12月26日土曜日

クリスマスに夏のガリシアを思う

ぼくの車にはGPS、いわゆるカーナビがついている。あまり使うこともないのだが、つけっぱなしにしてあることが多い。エンジンをかけると、だから、立ち上がる。立ち上がると挨拶を送ってくる。挨拶は時に、季節ものとなる。「今日は節分です」とか。

24日、前にぼやいたように会議があるので、大学に向かうべくエンジンをかけた。

メリー・クリスマス

カーナビが語りかけてきた。クリスマスは明日だぞ。気が早くないか? よせばいいのにぼくは独り言を言う。スクリーンを見ると、若い女の子がサンタクロースの格好をしたイラストが現れた。

頼むよ。

というのが、ぼくの反応。何を頼んだのかは定かではない。たぶん、頼むからやめてくれ、とでも言いたかったのだろう。まったく、安っぽい風俗店じゃあるまいし。サンタのコスプレをした女の子が、こちらを振り返る姿勢で立っているなんて。事故でも起こしたらどうするんだ。

白ひげのじいさんの衣装を若い女の子が着るのだから、これはもう定義として服装倒錯travestiだよな。「安っぽい風俗店じゃあるまいし」という感想はたぶん、そこから来るんだよな。

イマノル・ウリベ『キャロルの初恋』(スペイン、2002)では、主人公のキャロルは、誕生日を除き、男性のような格好をしている。髪も短くカットして、ボーイッシュだ。キャロルを演じた女優クララ・ラゴは、映画製作から3年後(だったか?)、プロモーションで日本にやってきたときには、だいぶ成長していたし、髪も伸びていたけれども。

スペイン内戦の時代を背景にしたこの映画、クララ……キャロルのアメリカ人の父ロバートは共和国支持者として国際旅団に参加している。母が死んでキャロルが預けられた先の叔母とその夫はフランコ支持者だ。門限を破ったキャロルに対して叔母は、「そんな民兵milicianaみたいな服装はやめろ」と怒鳴る。キャロルは祖父(こちらは、やはり共和国支持)に直談判して、彼の家に暮らすことになる。それでも、田舎町の雰囲気に鑑みて、初聖体拝領を受けろと迫る神父にあっさりと折れたキャロルは、ただし1つだけ条件を提示する。水兵の服を着るというのだ。

キャロルは父がアメリカ人なので、プロテスタント。初聖体拝領というのは、カトリックの子供にとって最も重要な儀式のひとつ。キャロルはプロテスタントだからそれに参加する義理はないのだが、なにしろスペインの田舎町(ガリシアかカンタブリア、あるいはカスティーリャ北部)。みんながカトリックみたいなところだ。ましてやフランコ優勢の時勢下、守旧派のカトリックは強い。で、妥協してその儀式に参加するのだけど、衣装だけは別のものを着るという。初聖体拝領では女の子は花嫁衣装のような白装束に身を包む。男の子は水兵の服。つまりキャロルは男の格好をすると言っているのだ。この映画、『キャロルの初恋』などと邦題をつけているが、こうした設定がなかなかに倒錯的でよい。

でも、ところで、キャロルが着ることを選択する(ラストの別れのシーンでも着ている)「水兵の服」って、早い話がセーラー服だ。セーラー服といえば、この国では中学や高校の女子生徒の制服としてすっかり定着しているのだった。うーむ……やはりぼくらは服装倒錯の社会に生きているのだなあ、などと考えながら6時までの会議をやり過ごした。そして、その映画についての原稿を仕上げた(それとも、それはその前日だったか?)。