それを紺ブレというらしい。最近では。ATOKでもすぐに変換されるのだから、定着しているのだろう。紺ブレ。コンブレという音だけ聞くとプルーストみたいだが、そうではなく、紺のブレザーのことだ。
ブレザーBlazerというのだから、そもそも燃えるようなblazing色の上着、つまり、赤のジャケットのことだったのだろう。それがフランネル製、金または銀ボタン、パッチポケットのスポーツジャケットの意味に転化し(『リーダーズ英和辞典』では「色物フランネル製スポーツ上着」と定義されている)、赤でなくても良くなったのだろう。ゴルフやテニスのチャンピオンに贈られる様々な色の上着となった。
「様々な色」と言っても、現実に着るもの、日常のアイテムとなったら、やはり紺やキャメルが妥当だということになり、やがて紺のブレザーは定番中の定番の地位を獲得した。
それを最近では「紺ブレ」というらしいのだ。ぼくも、高校時代にJ.Pressの紺のブレザー(当時は「紺ブレ」なんて略しかた、しなかった)を買って以来、ブランドやシルエットは変わっても、大抵、紺のブレザーを持っていた。
大抵がくたびれたり時代遅れになったりしつつあるので、新たなブレザーが欲しいと思った。夢にまで見た。久しぶりにJ.Pressのブレザーにでもしようかと思った。これならかつてガールフレンドらからもらったラペルピンやカフスボタンが良く似合いそうだし(カフスボタンというのは、当然、シャツにつけるものだが、つまり、カフスボタンつきシャツに似合いそうだということ)、ともかく、紺のブレザーを買おうと思った。
今日、新宿伊勢丹で紺のブレザーを買い、その後、元教え子やまだ教え子、もう教え子(ってのはいたっけ?)などとの食事の席に出向いた。
「何スか、それは?」
ぼくのジャケット・ケースを見て教え子が訊ねる。
「紺ブレだ」
「紺ブレって何スか? 知らないっすよ? そんな言い方、しないっすよ」
そこでまあひとしきり「紺ブレ」に対する講釈を垂れ、ともかくはそれを買ったのだと、自慢していたのだった。
でもまあ、まだそれを着るには早すぎる。早く冬が来ないかな♪
これがもらったおまけのボールペンと切り取った袖のタグ。