2010年8月9日月曜日

地下鉄に乗って

試写会に呼んでいただいた。@松竹試写室@東劇会館。

ゴンサロ・カルサーダ『ルイーサ』(アルゼンチン、スペイン、2008)

脚本コンテストで一番になったロシオ・アスアガの脚本を、映画の監督としては新人のカルサーダが撮ったフレッシュな一作。とはいえ、初老の女性の悲哀を描いて身につまされる。一方でところどころに笑いを織り込むので深刻になりすぎるわけでもない。つまりは手練れの作品という感じ。新人コンビにして手練れ。すごい。

夫と娘をいっぺんに亡くしたルイーサ(レオノール・マンソ)は、午前中は墓場の連絡係、午後は映画スターの家政婦として働いていた。早朝に出勤し、勤務先に葬られている夫と娘にバラの花を1輪ずつ手向けるのが日課。友は猫のティノだけ。そんなルイーサがティノに死なれて仕事に遅れた日、解雇を告げられ、女優も引退するからもう来なくていいと言われ、つまりは一度に3つの生活の糧を失ったという次第。

退職金も20ペソ50しかもらえず、猫の火葬代300ペソの持ち合わせすらない。銀行に行くときに初めて地下鉄に乗り、そこで多くの物乞いや物売り、ストリート・ミュージシャンらがいることを知り、自らも物売りや物乞いに身をやつしていく。

老後に不安を抱えるすべての現代人にとって、身につまされる辛い話。これを見ているわれわれ日本人は、さすがにストリート・ミュージシャンはこの十数年で常態と化したものの、地下鉄内の物売り物乞いなどほとんどいないので、この手段すら残されていないのかと、恐怖しながら見ることになるはず。ただし、上に書いたように、ところどころ笑いながらではあるけど。

ブエノスアイレスの美しい街並みと地下鉄がとにかく印象的(映像処理がうまいんだな)。ここの地下鉄(スブテSubteなんて変な略しかたをされるんだよな)、アルヘンティニスタたちが良く言うことには、東京の丸ノ内線車両が払い下げられているとのこと。残念ながら映画の中の地下鉄は黄色い車体で統一されていて、丸ノ内線らしき車両は見つけられなかった。

2008年の時点でいまだにダイヤル式の固定電話を使い、銀行の頭取名で何かの文書が来たから頭取に会わせろと窓口ですごみ、地下鉄の乗り方を知らないばかりか、エスカレータすらこわごわ乗るオールドファッションドなルイーサが、冒頭、起き抜けにぞうきんつきスリッパを履いてすり足で歩くずぼらさを見せているところなどが可愛らしい。ついに猫を葬ることになったルイーサの号泣も印象的だ。

帰りは地下鉄丸ノ内線に乗った。猫というグループの歌った「地下鉄に乗って」が耳もとで流れてきた。