新学期の最初の授業で、受講者がいなかったので、翌週、のんびりしていたらたくさん受講していることがわかり、慌てて準備する夢を見た。慌てているときに限って同僚に呼び止められて愚痴を聞かされ、ますます焦った。
次から次へと新刊が出て、読めないままに放置しているから追い立てられるのだ、と思ったかどうか……ともかく、昨日到着したのはこれ。
エンリーケ・ビラ=マタス『ポータブル文学小史』木村榮一訳(平凡社、2011)
とてもきれいな装丁。その名にしおい、これ自体がポータブルな一冊。
ロシアの作家アンドレイ・ベールイやエドガー・ヴァーレーズ、マルセル・デュシャンという芸術家たちがとらわれた、トランクに入るポータブルな芸術のオブセッションと、ロレンス・スターンとにちなみ、ポルタクティフ(!)での夕食時に結成された秘密結社《シャンディ》のメンバーたる文学者たちのおかしな想念を、後の『バートルビーと仲間たち』でも大いに発揮される博覧強記の引用・収集で人物のように動かして語る、ビラ=マタスお得意の手法。ソンタグらも引用していたベンヤミンの文字の小ささへのこだわりとか(そういえばぼくも若い時期、だいぶ小さい文字にこだわっていた)、「独身者の機械」、「宿命の女」などという、いかにも「文学」的な、「文学小史」的な事実やイメージや語彙が踊るのを見れば、ついつい引き込まれて読んでしまうというもの。しかもポータブルな一冊なので、一晩で読めてしまう。
高橋源一郎が「金子光晴」や「中島みゆきソングブック」を東京や横浜の夜の街に徘徊させていたころに、スペインではブレーズ・サンドラールやマン・レイ、ジョージア・オキーフ……等々、等々、をこのように活かして/行かせて/生かして(ただし、比較的早い時期に「ホテルでの自殺」という、最終的にエクリチュールの中での自殺の話になる章があるが)いたのだな、と感慨深く、面白い一冊。
中ほどに「オドラデク」の話が出てきて、これについては何かとても色々なことがいいたくなるのだけど、今はまだ話がまとまらない。オドラデク。シャンディたちをパニックに陥れる黒い間借り人だ。怖い……