2009年4月2日木曜日

読んでから年を終えろ


もちろんウェブサイト、『ガルシア・マルケス活用事典』のことは知っていたし(今、リンクを貼ろうとしたら、なぜかエラーメッセージが出るが、どうしたことだ……)、そこで「マルケス百話」と題されたコーナーに管理人が書き継いだ記事を中心として本を作っている話も知っていて、首を長くして待っていたのだけど、それだけに感慨深い。ついに、出来したのだ。

書肆マコンド『ガルシア・マルケスひとつ話』(エディマン/新宿書房、2009)

そりゃあね。そんな話も知ってるさ。出版社はぼくの2冊の本を出してくれた版元。奇特な方です。ブックデザインの宗利淳一さんとのコンビで、またしてもこんな美しい本に仕上がった。

中のイラストもそうだが、この本の目玉のひとつであるマコンドの絵地図を担当しているのが、イラストレーターの中内渚さん。外語のスペイン語卒、故・杉浦勉さんの教え子なのだそうだ。担当編集者の原島さんと酒を飲んでいて、ほら、できあがったんだよ、などとこのイラストを自慢げにちらりと(ちらりだ。あくまでも)見せられてから、もう1年以上になるはずだ。いや、2年か? やっと恋い焦がれたマコンド絵地図をまじまじと眺めることができた。ブエンディア家の中庭からは小町娘のレメディオスが昇天していたりして、かわいい。神々しい一幅だ。

負けず劣らず神々しいのは、もちろん、本文。そしてその本文を書くために収集し、読み込まなければならなかったはずのデータの数々。自身のサイトに「マコンド図書館」として掲載されていた文献表を編み直して、巻末に掲載している。2008年までの時点で日本語で読むことができたほぼすべての『百年の孤独』およびガルシア=マルケス関連の文献が網羅されているのだ。

在野の、などといって彼我の差を設けるのはあまり気が進まないが、他に言葉を知らないから、仕事を持ちながらこうした学究的コレクションを続ける愛好家をこう呼ぶならば、在野の愛好家・研究者が示しうるひとつの到達点だ。仮にもガルシア=マルケス研究を標榜する象牙の塔の研究者たちは、ここを超えなければならないのだよ。うーむ、手強い。そして、ガボが『族長の秋』にルベン・ダリーオを引用していると語ったインタビューを引き合いに出し、その箇所を示し、「ダリーオの詩に一丁字もない当方には、詩人の何という題名の作品であるか、皆目見当がつかない。どなたか、このニカラグアの詩聖を日本語で詳しく紹介してくれないだろうか」(259ページ)と問いかけられ、「ぼくも皆目見当がつかないなあ」などと間の抜けたことを言っている自分が恥ずかしい。

書肆マコンドさん、エディマンのブログによれば、東京堂主催の読書王というものに選ばれたのだとか。永江朗と豊崎由美に選ばれたというのだから、たいしたものだ。いや、そういう人ならではの1冊だ。

そのほかにアルトゥーロ・ペレス・レベルテ『戦場の画家』木村裕美訳(集英社文庫、2009)など。ペレス・レベルテはさすがに出るなあ。

あ、そうそう、公募、始まりました。この分野の若い研究者の皆さん、ふるってどうぞ。