メキシコではそれを水aguaというのだった。果汁百パーセントでないジュースを。
最初にメキシコに行ったのは政府の奨学金をもらった91年。到着後の手続きは奨学生全員で行ったから、時々、通訳代わりをやらされた。行ってすぐの夜、食事に出て立ち寄ったのが先に食券を買う方式の食堂。ほとんどスペイン語の話せない同行者たちの注文を色々と手助けすることになった。「飲み物は?」と訊かれたので訳すと、「何がある?」と同行者。訳すと食券売りの人はビールだの清涼飲料水だのジュースだのと挙げていく。そして、水だと。「水でいいや」と同行者が言うので訳すと、「何の水だ?」と問われた。
何の水だ? 水に何の水も何もあるものか。それはいったいどういうことだ。同行者に訳しもせずに、食券売りに訊いてみた。いろいろな水があるからさ、と食券売り。スイカだ、メロンだ、イチゴだと……
その後ぼくは堪能することになる。メキシコ市の街角には方々にジューススタンドが立っていて、オレンジジュースやらバナナシェークやら各種の水を売っている。オレンジはジュースだ。果実を切り、絞り器で絞って出す。紛れもない果汁百パーセント。ミキサーlicuadoraに果実とミルクを入れれば、シェークlicuado。一杯のバナナシェークはぼくの毎朝の日課となった。当時、ちょうど1ドル。ミキサーに作った分はすべて要求できる。ミルクではなく水を入れ、砂糖などで味をつけてミキサーを回せば、それが、水。スイカ、メロン、イチゴ、リンゴ、グワバ、パッションフルーツ、……実に多くの水があり、うれしい。メロンやスイカの水などもよく飲んだ。
今日、風呂上がりには、きのういただいたメロンの水を作って飲んだ。
暑かったのだ。こんな暑い日に授業、書類仕事、昼食、そのまま授業、間を置かずに授業内テスト、時間外の会合、と続いたので、へとへとだ。それなのに、明日は朝も1時限から試験だという。
ところで、同僚とエレベータを待っていたら、知り合いの1年生たちが近づいてきて、どんな試験問題ですか? これくらい難しいんですか? と同じ教材を使っている別の先生が他のクラスで実施した試験問題を振りかざす。簡単な問題にしてくださいね。授業中に言ったろ? とぼくは答えた。ぼくは感動的な問題を作るのだ。ふふふ。
なーに言ってんだか、エレベータの中で同僚が鼻で笑う。えへへ。
別の同僚は、知人の学生が受けた授業のレポートに「チャーミングな題をつけてね」と言ったとか。チャーミングなタイトル、感動的な試験問題、いずれもすてきじゃないかい?
学生時代のある先生が自慢していたことは、次のような問題を出したとか、出そうと考えている、とかいうものだ。「次の単語の可能な限りの意味を書け: ve 」
すてきじゃないか。ちなみに、veの可能な意味は3つ。 ……だっけか?