台風だ。台風だというのに、大阪に向かっている。台風は雨を連れてくる。雨が降ると傘をさす。傘をさしながら歩くと、自然と視線は下に向かう。下を見ていて気づいた。これ、なんだろう? 何か懐かしいような……
そうだ! 思い出した。長靴だ。ゴム長だ。けっこうな数の人がゴム長を履いている。
ゴム長というと、黒や茶色や黄色いのや、なんだかそれが野暮ったく思えていたものだが、今日、すらっとした女性がジーンズの裾を黒い何の変哲もないゴム長靴の中に入れて歩いていると、ぼくがこれまで知らなかった類のブーツであるかのように見えた。
レインブーツ、などと言えば少しはおしゃれになった気がする、なんて本気で考える人が本当にいるのかどうか、ぼくにはわからない。ぼくはそうした思想を鼻で笑う。ゴム長靴はゴム長靴だ。そしてそれは時に、子供時代のぼくの印象を裏切り、とてもすてきに見える。それに反して、ぼくのデザート・ブーツはどうやら底から雨水がにじみ始めたように思えるぞ。やはり砂漠用では雨には弱いのか?
そんなことを考えながら歩いていたら、今度は向こうから焦げ茶色のゴム長靴が歩いてきた……いや、つまり、ゴム長を履いた女性が歩いてきた。女性の脚が。足が。