何の因果か、今週2回目となるメキシコ料理店テピート。
テピートというのは、メキシコ市中心街の北に隣接する名だたるスラム街。『野生の探偵たち』では、ある人物が、酔っ払ってテピートのクラブに行ったときのことを、テピートに行くってことは前線にいくようなものだ、というふうに表していた。
オスカー・ルイス『貧困の文化』が叙述した家族の幾組かはこの地区にあるベシンダーと呼ばれる集合住宅に住んでいた。上で『野生の探偵たち』を引き合いに出したが、あの第一部では語り手の少年が、やはりこのベシンダーに住む女性の部屋に入り浸りになるのであった。
1985年の地震で甚大な被害を受けたけれども、ここに住む人たちの互助活動は模範的なものとして注目を集めたとのこと。地震後、この地域を活性化して立て直そうという都市計画が実践されている。
そんなテピートの名をなぜつけたのかはわからないが、店主のドン・チューチョ・デ・メヒコが、単純なコード進行のはずのスタンダード・ナンバーを手練れのギター・プレイで歌ってくれる。「ククルクク・パロマ」(『オール・アバウト・マイ・マザー』でカエターノ・ヴェローゾが歌っていたやつだ)のトマス・メンデスは彼の付き人だったそうで、その曲も彼のメキシコの家のリヴィングで生まれたそうだ。