生まれてはじめて買ったCDは、『ザ・ビートルズ』。いわゆる『ホワイト・アルバム』だ。
もちろん、ぼくたちの世代は二十歳も超えてからCDに出会っている。そんなにはじめてに感慨があるわけではない。その前には「はじめてのレコード」があるのであって、それとは意味合いが違う。
親元を離れて以来、結局はどんなに小型化してもある程度かさばるターンテーブルは持ったことがない。けれども、レコードは買って、ターンテーブルを持っている友人たちにテープに入れてもらったりして聴いていた。だから、10歳のころから10数年かけて何十枚だか何百枚だかのレコードはあったわけだ。ひどく貧乏だったので、「何百枚」はあやしいものだと思う。百枚だってあったかどうか。でもまあ、友人のレコードをテープにダビングしてもらうなどしてもいたから、気分は何百枚ものレコードを持った。
大学の何年生のころだったか、そろそろCDの普及もかなりなものになったと思われたころ、まだ決して安くなかった小型CDプレーヤーをローンで買い、ラジカセにつないで聴き始めた。
ハードを買ったらソフトも必要だ。プレーヤーを買った足でレコード屋に向かい、CDを買うことにした。CDソフトだって安くはない。そんなにたくさん買えるわけではない。何か飽きの来ないものを1、2枚と思っていた。そこで目についたのが2枚組の『ホワイト・アルバム』。小学生のころ(中学生だったか?)、近所の年上の友人の家で聴かせてもらって以来、レコードも持っていなければその複製も持っていないビートルズのアルバムの何枚かのうちのひとつだった。だから買った。
別にビートルズ・マニアではない。もちろん、嫌いではない。だからかつてレコードで持っていたけれどもCDに買い換えたというアルバムもある。でもレコードとしてもCDとしてもダビングされたテープとしても所有したことがないというアルバムだって2枚はある。まあその程度の愛好の度合いだ。レコードで持っていたけれどもCD化されたやつを買っていないというアルバムだって何枚もある。でもともかく、ぼくの中でビートルズというのは、はじめて買ったCDのアーティストだ。
何日か前にビートルズのアルバムがディジタル・リマスター版として発売された。だから、レコードでは持っていたけれどもCDでは持っていなかったアルバムのうちから、(『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バント』と悩んだ末に)『アビイ・ロード』を買ってみた。紙ジャケットと特典映像が嬉しい1枚。
……うーん、聞き比べないことには「ディジタル・リマスター版」であることの意義など、わからないな。ぼくはそんなに耳がいいわけでもないし、そもそもこのアルバム、ずいぶん久しぶりに聴くのだし。レコードはメキシコに行く前にもうすべて売り払った。レコードからダビングしたカセットテープの数々も、テープレコーダーのない現在のステレオに買い換えるときに捨ててしまった。聞き比べようがないのだ。
聞き比べたとしてもわかったかどうか、……それはまた別次元の問題だ。
さらに何日か前の話、ミゲル・デリーベス『ネズミ』喜多延鷹訳(彩流社、2009)購入。
仕事に行き詰まった時にプリンタのインクが残り少ないとの表示が出たので、インク購入のついでに気晴らしに散歩に出たのだった。そのとき立ち寄った吉祥寺の啓文堂で見つけた次第。帰宅したら訳者から買ってくれとの案内の葉書が来てた。
デリーベスは『マリオとの五時間』と『好色六十路の恋文』なんてのを学部の授業で読んだものだが、その後この2つはいずれも翻訳が出た(後者は同じ喜多訳で、前者は同じ彩流社から)。振り返ってみると、デリーベスは翻訳された作品は多い。