2014年12月7日日曜日

洪水は一七九七村におよび

火曜日の演習の授業で、偶然、2週続けてダニエル・アラルコンについての発表がある。まずは前回、『文學界』2013年4月号に掲載された短編「洪水」(藤井光訳)の発表があり、今度は『ロスト・シティ・レディオ』(藤井光訳、新潮クレストブックス、2012)について、訳者のtocayoが発表する。

『ロスト・シティ・レディオ』は、ペルーを想定しているのだろうが、一応、架空のある国が舞台になっている。内戦が終結したその国の首都で、行方不明者の名前を読みあげるというラジオ番組のパーソナリティを務めるノーマの許に、一七九七村という密林地帯の村民に託され、その村の行方不明者のリストを携えた少年ビクトルが訪ねてくる。ビクトルと彼に付き添ってきた首都出身の教師エリアス・マナウが実際のラジオ番組に出演するまでが小説の外枠。それまでの数日間の行動の合間に、カットバックの手法によってノーマとビクトル、それに国の内戦の過去が語られていく。


先週の発表が、terruco(田舎に潜伏して活動するゲリラ)という存在の共通性からマリオ・バルガス=リョサ『アンデスのリトゥーマ』との比較に及ぶものだった。『ロスト・シティ・レディオ』もまた、先住民の集落に足を踏み入れる首都の知識人/ゲリラというテーマにおいてバルガス=リョサとの比較が有効かもしれない。たとえば『密林の語り部』との。そしてまたカットバックの手法の多用という形式的側面においても、比較ができそうだ。