子どものころ、掻爬という言葉の意味を知ったときにその生々しさ(「生々しさ」という言葉では表しきれないような痛み。肉体を削り取られる痛々しさ)にショックを覚え、その痛々しい感覚のままに頭にこびりついたものだ。そんなことを思い出させる映画を観に行った。映画の日で1200円だった。
オードレイ・ディヴァン監督・脚本『あのこと』フランス、2021、アナマリア・バルトロメイ他
今年のノーベル文学賞受賞者アニー・エルノーの「事件」菊地よしみ訳(『嫉妬/事件』堀茂樹・菊地よしみ訳、ハヤカワepi文庫、2022)の映画化作品。エルノーの経験に基づく(オートフィクションなどと称される)話で、人工妊娠中絶が法的に禁じられていた時代(小説の設定は1963年)のフランスの、地方都市の大学に通う女子学生が妊娠し、中絶の道を模索する話だ。飲食店の娘である彼女(映画の中の役名はアンヌ・デュシーヌ。バルトロメイが演じている)は卒業後教師になり、ステップアップすることを望んでいたので、ここでドロップアウトするわけにはいかないと思っていたのだ。
人工妊娠中絶の痛々しさ、そこへ向かうアンヌの焦り、大学都市の寮の雰囲気、いかにもフランス映画の大学のシーンに出てきそうな教室の雰囲気。映画がその観客による「体験」の感覚を謳うのはこうした要素の積み重ねによるものだろう。
ところで、これ。
よしだたくろう(吉田拓郎)『今はまだ人生を語らず』(CBSソニー、1974/2022)
一曲目の「ペニーレインでバーボンを」に「テレビはいったい誰のためのもの/見ている者はいつもつんぼ桟敷」という歌詞があり、そのために長いこと再生することができなかった。CBSがCBS時代の拓郎の全曲集を出したときはこの曲だけ外され、全てのアルバムがシャッフルされて再編されていた。2006年のつま恋でひさしぶりに歌ったときには「見ている者はいつも蚊帳の外」と歌詞を改変して歌った。
このたび、拓郎の引退宣言をきっかけに、「ペニーレインでバーボンを」のオリジナル歌詞もそのままに、74年のアルバムをリマスターして発売するというので、買ったのだった。パネルつき特別版(左下)。僕はもともとのオリジナルのアルバムを持ってはいたのだが、もうなくしてしまったので。
ところが、ふと気になってわが家のCDをかき回したところ、見つかった。CBSソニーが「CD選書」のシリーズ名の下に1990年ごろにリリースした『元気です』、『ライブ ’73』とともにこれを買っていたのだった(左上)。
そこまでのコレクターではないので、CD選書版は、よかったら、どなたかに差し上げます。ご連絡ください。
そして、去年の大晦日に見た映画、國武綾監督『夫とちょっと離れて島暮らし』(リンク)DVDが発売されたので、買ってしまった(右)。