2020年7月11日土曜日

赤いコンヴァーティブルのスマート


ジャームッシュがゾンビを撮った。様々なジャンルの関節を外してきたジャームッシュが、ゾンビ映画をどう扱うか、興味深い。

センターヴィルという小さな町でのゾンビ騒動。しかし、極地での実験で地軸がずれたことによる現象だそうで、ゾンビの出現やそれに先立つ昼夜のバランスの崩れは世界的なものだということが示唆される。警察署長のクリフ(ビル・マーレイ)と巡査のロニー(アダム・ドライバー)、ミンディ(クロエ・セヴィニー)が大量発生したゾンビたちに立ち向かうことになるのだが、彼らとは別に素晴らしい活躍を見せるのが、外国からやって来て葬儀屋の主人に収まったゼルダ(ティルダ・スウィントン)。居合いのようなものをたしなみ、首を切り落とせば動かなくなるゾンビをバッサバッサと切り捨てて爽快だ。

ジャンルとしてのゾンビ映画の枠をジャームッシュはメタフィクションの体裁をとることによって崩してみせる。かなり最初の方からその意図は明らかだ。スタージル・シンプソンによる書き下ろしの「デッド・ドント・ダイ」(もちろん、原題は映画のそれと同じく “The Dead Don’t Die” ちゃんと定冠詞がつく。「死人は死なない」)がカーラジオから流れると、聞き覚えがあるのはなぜだろうといぶかるクリフに対してロニーがあっさり応える。「テーマ曲だから」と。

葬儀屋ゼルダの正体が明かされるときがクライマックス。笑っちゃうんだな。椅子からずり落ちそうになる。ゾンビを扱うのなら、これくらいふざけなきゃという潔い姿勢だ。そしてこの直後にも俳優たちが俳優であることを暴露するような、メタフィクショナルな台詞が続き、映画は一気に終結に向かう。この結末もいい。

ゾンビたちがやっつけられる瞬間の映像処理がいい。犠牲者のひとりゾーイをセレーナ・ゴメスが演じているのだが、彼女のファンらしいジャームッシュが、しかしまたずいぶんむごい扱いをする(そういえば僕が観に行った映画館は『ミッドサマー』を観た映画館でもあり、そこではまだロングランが続いているのだが、あの映画の中ではビヨルン・アンドレセンにひどい扱いをしていた。あの扱いよりは少しポップ)。笑うしかない。

外枠全体をまとめるような役割を演じるのがトム・ウェイツ。その彼が墓場からメルヴィルの『白鯨』を拾い上げる箇所がある。そういえば『白鯨』って、どんな内容だっけ? と気になって、帰宅後、これまで探し続けているのだが、見当たらない。うーん、どうしたんだろう? いつもの欲しいときに本がみつからない症か? でもひょっとして、あの映画の中の『白鯨』は僕のものだったのではあるまいか? うーん……