2012年5月26日土曜日

黒パン

去年のラテンビート映画祭での上映を見損なっていたが、一般公開を前に、見る機会を得た。アグスティー・ビジャロンガ『ブラック・ブレッド』(スペイン/フランス、2010)

スペイン内戦やその直後を舞台とし、子供を主役に据えた映画は日本でも比較的受け入れられてきた。これもそのひとつの新たなバージョンなのだが、なかなかに複雑な背景をしくんで面白い。

内戦後、アカ、すなわち共和派の父ファリオル(ルジェ・カザマジョ)がフランスに逃亡することになったので、親戚の家に預けられたアンドレウ(フランセスク・クルメ)が、実は父が逃げているのは政治的理由からではないかもしれないということを発見していく、と言えばいささかおおざっぱに過ぎるストーリーの紹介になるだろうか?

内戦による政治的対立、および子供の目から見た不可解な大人たちの過去、というテーマのみでなく、性的マイノリティーを許さないマチスモ的価値観、小村落内での村八分の仕組み、政治犯やマイノリティなどが隠れて住む村はずれの洞窟についての噂とそれがもたらす恐れ、サナトリウムの中に隔離された人間との交流とその存在が想起させる母の過去、貧困ゆえに節を曲げざるを得ない大人の事情、幼い女の子の性的虐待、淡い初恋、……などが取り入れられたストーリーは、かといって長過ぎない。子供が主人公なので、決断をして大人になるという物語には違いないのだが、その決断の後味の悪さが実に映画的で心地よい。最後の母フロレンシア(ノラ・ナバス)の告白は必ずしも必要なかったのではないかと思うのだけれども、それはまあ好みの問題。面白いことに変わりはない。

原題はPa negre。「黒パン」だ。パンの色の違いが階級差を表すのだという。黒パンしか食べるなと言われたアンドレウが、町の有力者マヌベンスさんの家で白パンに目を眩ませるシーンに反映されているこの価値観も、重要。ちなみにこの原題はカタルーニャ語で、セリフもほぼ全編カタルーニャ語によるもの。