2020年5月10日日曜日

スーツを買おう!? 

内澤旬子というと、やはり『センセイの書斎』(2006 / 河出文庫、2011)『世界屠畜紀行』(2007 / 角川文庫、2011)で鮮烈な印象を残した人物。内容もともかく、これらが本人によるイラストもついた楽しい本だったので、先日上梓された『着せる女』(本の雑誌社、2020)が本文にイラストつきでないことは、少しばかり残念。

でもまあ、周囲の作家や編集者をブティックに導いてはスーツを見繕ってあげる過程がなかなか面白い。彼女自身がスーツのあり方やその用語(たとえば「段返り」すらも)にはじめて触れる驚きを隠さず綴っているところがいいんだろうな。つまり、ファッション通のオシャレさんがダサ男たちに指南しているというスタンスではない。男たちがスーツ(やチノパン、ピンクのシャツ)を着ると格好いいんだけどな、という願望を、仕事仲間に託して叶えていく、という感じだ。

意外だったのは(というのはこの人のことをよく知らなかったからだが)永江朗のファションへの意識。しかも、そうか、この人はアール・ヴィヴァンの店員だったのか! そんな彼の科白が、スーツを着る者の苦労を端的に表明している。

「スーツは、すごく流行に厳しいんです。例えばパンツの丈とかジャケットの裾丈にしても、流行から外れるとものすごくわかりやすい。レディスだったら好きで着ているんだと言えるけれども、メンズはそうは言えない。この人は無関心なんだって思われちゃうようなことになる。(略)」(198ページ)

そうなのだよ。スーツって難しいのだ。そして金がかかるのだ。

僕もあまりスーツは着ない。チノパンやコットンスーツ(セットアップ)のボトムズにボタンダウンシャツ、ジャケットという出で立ちが多いだろうか。いわゆるビジネス・スーツはあまり持たず、ある程度の場向けにはセットアップを着回しているという感じだ。半分くらいはパターンメイドで、残りの半分は既製服。だいたい既製服でも合う体型だとは思うけれども、そんなわけでそれぞれのカットが一定せず、中には今着るとかなり時代遅れだなと思うものもある。もっとも確実に着ることになる黒スーツ(葬式などのため)が、いちばん怪しいということが最大の泣き所。ボウタイ3本、ニットタイ4本、葬式用の黒いネクタイ1本、そのほかストライプやドット、無地のネクタイが合わせて10本ばかり。最大の問題はシャツで、体の他の部位に比して首が太いので(だからシャツのほとんどはボタンダウンだ)、ネクタイを締めるためのシャツは大抵パターンメイドで作ったものだ。カフスボタン用のとか、クレリック・シャツとか。でも、そんなんだから着る頻度があまりにも少ない。ネクタイもその本数のわりに締めることが少ない。うーむ……

去年の夏にほとんどすべての服がパンパンであることに気づき、そこから10kgほど体重を落として大抵はまたフィットするようになったので(もう5kgばかり落とすのが理想)、たまには着てみようかな、スーツ。

……でも、もう冬ではないのだった。ジャケットの数がグンと減る季節なのだった。