2022年9月17日土曜日

月が出た!

フェデリコ・ガルシーア・ロルカ『血の婚礼』田尻陽一訳、杉原邦生演出、木村達成、須賀健太、早見あかりほか@シアターコクーン


大手ホリプロが、今、シアターコクーンで『血の婚礼』をやるというのは驚きではあるのだが、まあ、ともかく行ってみた。若いアイドル級の俳優たちだし、花婿の母親役は安蘭けいだしで、客のほとんどは女性であった。


僕の頭の中には最悪の改編の事例として、2007年のTBSとアトリエ・ダンカンによる上演がある。白井晃演出。音楽に渡辺香津美を起用したのはファンとしては嬉しいが、レオナルドと花嫁が逃げた後の森のシーンでは月と乞食という配役を廃して、その代わり「死」という新たな人物を登場させたりして、台なしであった。こうした改編はきっとある種のわかりやすさを模索した結果だったのだろうけれども、詩がそれだけで悲劇なのだということを忘れさせる。


そんな事例を思いだしたものだから、怖い物見たさのようなところもあったのだが、結果的に、このホリプロ版は、そうしたキャストの手入れをすることなく(レオナルドの妻の母親は削除されていたが)、ちゃんと月も乞食も出していて、良かった。しかもこの月、声が良いと思ったら安蘭けいが二役で演じているのであった。レオナルドと花嫁の韻文の台詞によるやり取りには、生演奏の音楽——ギター、チェロ、パーカッション——に合わせているのでダンスに見える動きを取り入れていて、これも良かった(白井版における森山未來の腰の据わっていない疑似フラメンコ的な踊りと違って、良かった)。男ふたりの殺し合い(原作では「叫び声が聞こえる」とのト書きで処理している場面だ)に殺陣を取り入れて、これがこの版が模索して得た「わかりやすさ」だったのだろう。


パネルのようなものを組み合わせて作った壁を一枚ずつ押し倒していくセットの仕組みも面白かった。


ちなみに、僕が演出した時には、ふたりが逃げた瞬間に壁を壊すという演出を試みたのだった。1985年のこと。



9月は名古屋で集中講義をし、アルモドバル『パラレル・マザーズ』の試写を観た。写真は名古屋のホテルにて。