2020年9月16日水曜日

ゆっくりと緞帳が下りてきて、そして……

長田育恵作、栗山民也演出『ゲルニカ』@パルコ劇場(パルコ・オープニング・シリーズ)



僕は新生パルコ劇場のオープニングでピーター・シェーファーの『ピサロ』(35年前の同じパルコ劇場での上演を観に行ったのだ)を観に行く予定だったのだが、このたびのコロナ騒ぎで公演は中止、払い戻しを受けたのだった。その代償というわけでもないが、観に行ってきたのだ。『ゲルニカ』。



二幕もので、地元の盟主の娘サラ(上白石萌歌)の結婚の日に内戦が始まり、婚約者のいとこテオ(松島庄汰)が反乱軍側に参加したために婚礼は中止、そのサラが当然ファシスト側である母マリア(キムラ緑子)の許を離れるまでが第1幕。今は家を出て飲食店を開く元料理人のイシドロ(谷川昭一朗)の店に身を寄せながらバスク民族派の若者たちの中で暮らしているサラが、数学者の道を捨てて人民戦線軍に参加したユダヤ系のイグナシオ(中山優馬)――テオを殺した――と知り合い、ゲルニカの爆撃の日を迎えるまでが第2幕。外枠としてイギリスとフランスから戦争の記事を書くためにやってきた二人のジャーナリスト、クリフ(勝地涼)とレイチェル(早霧せいな)と彼らが書いた記事が存在する。


第1幕の最初と最後、それから全体の最後近いクライマックスでは「月曜日」「午後4時半」を強調する歌をキャストたちが全員で歌う。一瞬、ミュージカルなのかなとも思うが、そうではない。これはこの日時が運命的に指定されていることを示唆してガルシア=ロルカ「イグナシオ・サンチェス=メヒーアを悼む」を思わせる。サラとイグナシオの運命の出会いを血の問題として提示するところなど、伝統的なスペイン的テーマを意識しているようで重層的だ。そしてこのふたりの血の問題は多く語られるわけではないが、いくつかの劇の展開をほのめかし、一種の謎を作っている。無粋な謎解きはしないところが何よりもいい。脚本の勝利。



回り舞台を活用しつつシンプルに作ったセットもともかく、爆撃の瞬間の表現がすばらしい。タイトルにほのめかしたので、僕もこれ以上は言わないようにしよう。上白石萌音はTVドラマで人気を博したようだが、妹・萌歌は舞台映えのする女優なのだった。



この種のものにしては厚いパンフレットには金子奈美がコメントを寄せている。彼女自身が書いているように、彼女の訳したベルナルド・アチャガ『アコーディオン弾きの息子』(新潮社、2020)とともに楽しんでいただきたいと思うのであった。