おかしな話である。怖い話である。
ナントカという作曲家のゴーストライターを務めていたという新垣隆という人が、非常勤講師として勤める桐朋学園大学から処分されそうになっているとか。
かつて、あるアイドルが、彼女の名前で本を出版、記者会見で内容を問われ、「うーんと、まだ読んでないからわかりません」と答えたという笑い話があるが(本当のことなのか?)、ゴーストライターというのは、かように、常に存在するのである。
ぼくも2、3度、対談だの座談会だのといったものをして、その記録が雑誌などに掲載されたことがあるが、その時、ぼくはただしゃべっただけであり、しゃべったそのままでは活字にならないので、そのしゃべったことは再編成されている。が、ぼくはそんな再編成などした記憶はない。しゃべった内容すら記憶にないこともある。誰かがテープから活字に起こし、再編成し、記事としてリーダブルなものに作りかえたものをチェックしただけだ。その「誰か」はその雑誌には名前さえ出ていないかもしれない。出てる場合もあるけど。出ていない場合、その人のことを「ゴースト」と称する。
名のある作家が海外の作品の翻訳を出版する。それをその言語に詳しい専門家がチェックする。その際、大幅に手直ししてもはやその作家の訳の原形も留めないものになるかもしれない。しかしてその専門家は謝礼くらいは受け取るものの、翻訳者として名を出すわけではない。彼/彼女はそのとき、幽霊だ。ゴーストなのだ。
ゴーストライターは常に存在する。ゴーストライターを務めたことで誰かを罰するなど、おかしな話だ。ゴーストを雇ってその存在を隠し、あたかも自分の手柄であるかのように吹聴した、当の作者ならばまだしも、ゴーストに厳しく当たることはない。ましてや新垣さんという人は非常勤講師だ。週に1回、90分教えたとしても、月たかだか2、3万くらいしかもらえない、要するにアルバイトだ。間違っても解雇、なんてことがあってはいけない。