9月4日(水)には大江健三郎文庫設立1周年記念シンポジウムというのに参加し、「大江健三郎とメキシコ」という話をしてきた。
その後、名古屋での集中講義。
10月4日(金)には前日に北海道の常呂町(現・北見市)に飛び、常呂高校で講演をしてきた。常呂には東大の考古学演習施設があり、その関係で常呂町(北見市)との間に毎年、市民講座などが開かれている。それとセットで常呂高校での講演会がある。今年は僕がそれに当たったという次第。翌日が立教での授業だったので、とんぼ返りであった。
10月31日(木) ペドロ・アルモドバル『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』(スペイン、USA、2024)@東京映画祭
作家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)が旧友の戦場記者マーサ(ティルダ・スウィントン)が癌になったと聞きつけ、久しぶりに会いに行く。マーサは娘のミシェルとの不仲の理由などについて話す。癌治療がうまく行かないことを知ったマーサは安楽死を望み、人が死ぬのに重要なのは誰かが隣の部屋にいてくれることだと言い、ウッドストック近くの一軒家を借りてそこで自殺するので、隣の部屋にいてくれるようにとイングリッドに頼む、という話。
アルモドバルらしい都会(ニューヨーク)のアパートの窓の向こうに見える高層ビル、エドワード・ホッパーの絵をそのまま再現したような家、スペインを舞台にしたものに比べて抑え気味ではあるものの、鮮やかな色使いが飽きさせない映像を作っている。
僕はアルモドバルとスウィントンは似合いの組み合わせだとは思うのだが、それがなぜなのかはよくわからずにいた。ところが、彼女の最初の登場シーンで一気に理解した。アルモドバルは真上からのショットが印象的な作家だ。スウィントンは寝そべった姿が似あう人物だ(ジャームッシュの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』にそんな印象的なショットがあったように記憶する)。寝そべるスウィントンを上から撮ったショットで目からうろこが落ちるのだ。
原作はSigrid Nunez (シークリット・ヌーネスおよびシーグリッド・ヌーネスの表記でいくつか翻訳がある)のWhat Are You Going Through 。ヌーネスはヴァージニア・ウルフのファンで知られるから、The Room Next Door は「(鍵のかかる)隣の部屋」なのだろう。ウルフの「病気になること」などが意識されているのか、スウィントンの横臥した姿勢が印象に残る。そしてウルフ以外ではジョイスの「死者たち」およびその映画化作品『ザ・デッド』(ジョン・ヒューストン、1987)のモチーフが踏襲されている。窓の外の雪だ。