要するに、間抜け、なのだ、ぼくは。
今朝はいつものごとく、8時から11時まで仕事をした。執筆に精を出した。シンポジウムの原稿に連載の〆切り、他の雑誌の一回限りの文章の〆切り、などなど、ひとつ片づけてもまたその次の仕事が控えているのだ。
朝食をコーヒー2杯とジュース一杯で終えるぼくは11時ともなると腹が減る。正午を待たずに昼食を摂る。お望みとあらば、これをブランチと呼んでもいい。ともかく、何か食べる。家で済ませる場合もあれば、外に食べに出ることもある。いずれにしろ、昼食後、研究室に向かうことになる。それからまた夜まで仕事だ(今日は会議と追いコンだけど)。今日は外に食べに出てついでに大学まで歩いて行こうかという気分だった。
どこで何を食べたかは、この際、どうでもいい。吉野家の牛丼でも、日高屋のラーメンでも、本郷通りにいくつかあるいい感じのビストロやイタリア料理のレストランのセットメニューでもいい。「時価」の寿司屋でもいい。ま、そのいずれでもないのだが。
で、支払いを済ませようと思った。
!
財布がない。いつも入れている左の胸ポケットに財布がない!
慌てふためいて免許証を預け(カードケースは見つかったのだ。そこに免許証もあった)、家まで取りに帰った。家に忘れたのだろうと思ったのだ。駅(その周辺の店だったのだ)からわが家までの道のりがこれほど長く感じられたことはなかった。
家に帰ったらもっと焦った。冷や汗がでた。財布がないのだ! ふだん財布を置いてあるところにも、ダイニング・テーブルにも、机にも、その引き出しにも、鞄の中にも!
参った。ほとほと参った。やれやれ。俺もついに財布をなくすなんて間抜けの仲間入りか。そういえば今日のコートは裏地が着脱可能で、ボタンで留めるやつだから、そこでできる隙間をコートのポケットと勘違いして、財布を入れようとして落としたことがあったが、そんな風にして落としたのだろうか? 手紙を出そうとしてポストの前で取り出したときだっただろうか? 入っていたのは僅かばかりの現金とキャッシュカード、クレジット・カードは3枚だと思う。パスモにも一万円弱のチャージ料金があった。あれなど、暗証番号がわからずとも使えるから、捨てたようなものだ。
角を曲がったところに交番があったから、そこで被害届を出してこよう。やれやれ。今日は研究室の追いコンなのだが、参加できないかなあ? 参ったな。
ふと、右の胸を触ってみた。膨らみがあった。
あ、いや、乳房のことではない。そりゃあ、ぼくは胸筋逞しいほうではあるが、そのことではない。
つまり、ふだん入れないはずの右ポケットに財布が入っていたのだ。
……言い訳だ。昨日おとといと連続でスタジャンを着て外出した。そのスタジャンの内ポケットは右にしかない。ふだん右利きで右で財布を持ち、左ポケットに入れるぼくも、このスタジャンを着るときは左手で持って右ポケットに入れる。それを2日連続でやった。おかげで、それまでの習慣を忘れ、今日は無意識のうちに右ポケットに入れたらしいのだ。
やれやれ。つくづくと間抜けなのだ、ぼくは。