坂手洋二作・演出『ゴンドララドンゴ』(燐光群)@ザ・スズナリ。
1988年、昭和天皇が死の床に伏せっていたころに端を発する物語。ゴンドラに乗ってビルの外装の手入れをするバイトをしていた俳優のロクさん(大西孝洋)が仕事仲間のトラさん(猪熊恒和)と体が入れ替わってしまう。とりあえず眼前の問題であるロクさんの劇団の公演を乗り切り、ロクさんになったトラさんはトラさんの妻ノリコ(都築香弥子)と再婚。元来はぐれ者のロクさんはトラさんの見た目のままロクさんの子供トオル(杉山英之)を連れて放浪の旅に出る。その後、どうやら怪しい教団に入信したらしい。が、95年に教団は大きな事件を起こして司直の手にかかり、それを機に親子は逃げだしたらしい。
その1995年に端を発するもうひとつの取り替え物語がある。ある作家が不倫関係にある編集者のヒトミ(円城寺あや)と共に交通事故に遭い、肉体は死に、意識は彼女の体に棲みついてしまうというもの。そのことなどを作品に書いたので、女優に成長したトラさんの娘ミチ(百花亜希)が相談にやって来る。
教団脱退後のトラさんの行く末についてはここには書くまい。あ、そこに来たか、と思わせる展開。88-89年、95年というふたつの転換点に、ありきたりと言えばありきたりな取り替え物語を掛け合わせると、これが面白い試みになる。単に人間が入れ替わるというだけでなく、入れ替わる直前のロクさんが発していた実は劇の台詞だったという言葉、「自分の命と引き換えに、世界中の人を救えるとしたら?」が関係してくると、プロットは一気に歴史性のあるものになる。88-89年とは昭和天皇崩御とそれに伴う元号の交代、ベルリンの壁の崩壊などの年であり、95年は阪神淡路大震災とオウム真理教により地下鉄サリン事件の年なのだから。
劇中劇などの遊び心もあるし、何より、昨日の世界の記憶をくすぐり、深刻にならずに楽しめる作品、といった感じ。