ウディ・アレン『教授のおかしな妄想殺人』(アメリカ、2015)@丸の内ピカデリー3
ニューポートの大学の哲学科に新たに赴任してきたエイプ(ホアキン・フェニックス)は実存的悩み(と昔なら言ったろう)に取り憑かれているし、そのせいもあって、赴任前からいろいろと噂も立っていた。曰く教え子と寝るだの変人で敵が多いだの……
そうした噂はむしろ異性を惹きつけるもので、自然科学科のリタ(パーカー・ポージー)は夫のある身でありながら彼を誘惑してかかる。優秀な教え子ジル(エマ・ストーン)もボーイフレンドひとりには決められないなどと言いながらエイブとの関係を進展させようとする。
無意味の感覚にとらわれているエイブは書きかけの本も進まないし、一時的に性的不能に陥っている。ところが、ジルと一緒にいたダイナーで、後ろの席の会話を盗み聞きし、そこで名指しされた悪徳判事トマス・スペングラーを、その見知らぬ人に成り代わって殺すことによって人生の意味が見出せるのではないかと考える。そう考えたところから、実際、彼は生気を取り戻し、リタとも関係を持ち、しまいにはジルともできてしまう……
実存主義的、と言ってしまおう。実にこうした展開は好きだ。大学の教室のセットもすてき。エマ・ストーンがとびきりチャーミングだ。
何と言っても感心するのは、誰にも気づかれないはずだった完全犯罪がリタにばれそうになったときに、まだ真相をしらないジルとリタが、その問題についてバーで話すシーンがあるが、ここで、恋敵であるはずのふたりの間に、嫉妬のドラマを何ひとつ用意しなかったということだ。安易な愛とジェラシーの三角関係の話にされたら、たまったものではない。そんな展開にしないところがウディ・アレンのいいところなんだな。
しかし、それにしても、大学を舞台にするフィクションでは常に教師と教え子とが関係を持つ。15キロも増量して役作りしたというホアキン・フェニックスの、ぼってりと腹の出た中年体型でも、エマ・ストーンを魅了できるのだ!
おかしいなあ? 俺はあそこまで腹は出ていないが、俺にはストーンみたいな優秀で美しい学生、ついてこないぞ(優秀で美しい学生はたくさんいるが)……