毎年、半期13回で一冊の小説を読み切るという授業をやっている。1回の授業につき20-30ページばかり読んでいけば300ページばかりのものならば読み終わる計算だ。その授業が昨日、最終回だった。つまり、読み終えた。
今年読んだのは、これ。
Isabel Allende, Largo pétalo de mar (Vintage Español, 2019)
アジェンデはどうもファンタジー作家として位置づけられ、すっかりシリアスなものばかりを扱いたがる研究者たちからは遠ざけられているようだ。が、この授業の趣旨はともかくスペイン語の小説を読み切るということだし、この作品はスペイン内戦とチリのクーデタに翻弄された者たちを扱っているというので、ともかく読んでみようと思った次第。
三部構成。第一部では内戦のこと、主人公ビクトルとその弟の妻ロセールの紹介がこと細かになされる。バルセローナに住む医学生のビクトルは内戦勃発でまだ免許もないまま共和国側の軍医(見習い)として働いている。彼の家族に引き取られて音楽を学んでいる(ビクトルの父は音楽家にして音大の教師)ロセールは、戦闘要員として内戦に参加しているビクトルの弟ギリェムとの間に子をもうけ、結婚する。しかしギリェムは戦死、父は病死、母とロセールを先に逃がした上でビクトルも国外に逃れる。ここまでが第一部。
第二部ではバラバラに逃げたビクトルとロセールがフランスで再会を果たし、パブロ・ネルーダが組織した亡命者のための船ウィニペグ号に乗ってチリに亡命を果たす。表面上は夫婦として過ごしながら、ビクトルは医者としてロセールは音楽家としてチリでどうにか生活を確立する。ところで、ふたりは乗船の権利を得るために偽装結婚しており、チリの法律上なかなか離婚はできないのでそのままの関係であったのだけど、そういう立場から、必然的に恋愛沙汰などが展開する。それが第二部の内容。スペインからの撤退の途中はぐれていたビクトルの母親と再会が叶い、チリに呼び寄せるなどのエピソードも。
第三部で一気に時間が速く進む。実質的にも夫婦となり、それぞれの仕事での名声と地位を確立し、子どもも鉱山技師として自立した頃になって、クーデタが勃発。ビクトルはサルバドール・アジェンデのチェス仲間だったこともあって強制収容所に入れられる。その後、どうにか亡命を果たしてベネズエラで10年ほどを過ごした後に帰国を許され、チリも民政を取り戻す。ロセールが癌で死に、80歳の誕生日を迎えたビクトルのもとに、かつての恋人オフェリアとの間の子どもだと名乗るイングリッドが現れる。
巻末の謝辞には、40年以上も英語環境に住んでいるのでたくさん間違いを犯すスペイン語を添削してくれたホルヘ・マンサニーリョへの感謝なども書かれていて、そういえばアジェンデは合衆国在住なのだけど、そうやって鈍っていく言語であるスペイン語にあくまでもこだわって書き続けているのだな、と改めて気づかされた。
小説は亡命・移住した先で根付くこと、カタルーニャ人であったビクトルがチリ生まれの子を持つことによってチリ人であると感じることなどを扱っているし、アジェンデ自身も、そんなわけでは今では立派なアメリカ人だろうと思うのだけど、スペイン語とチリにこだわっているというのが、つまり、気になったのだ。
見返しに写真満載の楽しい本だ。