見損なった(最近この語を使うと誤解されそうで怖い。観る機会を逃したということ)映画を取り戻すシリーズ第二弾(1月2日)は、
イサベル・コイシェ『マイ・ブックショップ』(イギリス、スペイン、ドイツ、2017)。
原作はペネロピ・フィッツジェラルドの1978年の小説。ブッカー賞の最終候補だった作品。日本では今年……いや、去年、2019年の春ごろ。自身読書が好きだから読書する人を映画に出すのだと言っていた(来日時の都甲浩治とのトークで)コイシェがブックショップを扱うのだから、これは観ないわけにはいかないだろうと思いながら、結局、観ないでいたのだな。
戦争未亡人のフローレンス(エミリー・モーティマー)が小さな町で書店を始めるが、その町の有力者ヴァイオレット・ガーマート夫人(パトリシア・クラークソン)の妨害に遭う話。ガーマート夫人は前々から文化センターのようなものにしようと狙っていた空き家をフローレンスに先取りされたというので、いろいろと妨害工作をするのだ。
フローレンスの理解者で擁護者になるのが町外れの高台に独りで住んでいる読書家のエドマンド・ブランディッシュ(ビル・ナイ)。オスカー・ワイルドの『若い芸術家の肖像』を気に入らないとして途中で火にくべ、町の者たちの噂を「悪い文学」と切って捨て、ブロンテ姉妹はいかんと憤る頑固老人がフローレンスが見繕って送ったレイ・ブラッドベリの『華氏451度』を読み耽って他のものはどうでもいいからブラッドベリのものは何でも送ってくれと頼み、『ロリータ』(これが出版された時代の話なのだ、映画は)についての意見を求められれば読まれるべき作品だと断じる、そういう細部が書店を舞台にする作品として優れている。
同じ書店を舞台にしても書物の細部にはあまり立ち入っていなかったとの印象のある『ノッティング・ヒルの恋人』に、実はモーティマーは出演していたらしい。気づかなかったのだ。
飛び跳ねる水。