昨日は結婚式だった。卒業生の。
ぼくが外語に奉職した年に入った学生だ。そういう学生に対しては、やはり何だか特別な感慨を抱いてしまう。比較的よくしてくれた学年の、とりわけなついてくれた学生たちのひとりだ。
彼女は就職も決まっていたと思うのだが、そこに行くことを拒んだ。かといって路頭に迷うつもりもなかった。ちょうどサラゴサの万博での日本館のアテンダントを募集しているという情報が舞い込んだので、勧めてみた。そして選考に受かり、サラゴサで数ヶ月を過ごし、帰ってきたと思ったら、その日本館をオーガナイズした会社の上司に目をかけられ、声をかけられ、そこに就職した。そこの仕事で知り合ったある国立大学の先生と結婚することになったのだ。
昨日は朝から忙しかった。披露宴に参加するために午前中にたまった仕事を終えなければならなかった。仕事だけではない、半分個人的な用も混じっていた。同窓会の名簿の整備のために、同期卒業の人々の動向を点検してはくれまいか、と頼まれた友人が、さらにぼくに協力を求めてきていたからだ。いくつかの友人の動向を教えて差し上げた。
名簿の中に、ちょっと目を引く名前があった。
仮にYとしよう。5年かけて大学を卒業したぼくにとって、入学年度はひとつ下になる女性だった。その女性に対するぼくの特別な思いがどんなものだったかは、また別のストーリーなので今は書かない。ともかく、他の名前とは少し違った輝きを持った名前だということだけを確認しておこう。加えてその日Yの名がぼくの目を惹いたのは、そこにメールアドレスが載っていて、そのアドレスのサーバーが "es" で終わっていたからだ。つまり、スペイン在住ということなのだろうか?
個人情報を悪用して、メールを送ってみた。元気? こんなわけでただ君に挨拶したかったんだ、等々。
二次会の前にiPhoneのメーラーに何通ものメールが届いていることに気づいて、チェックした。そのうちの一通はYからの返信だった。悪用してくれてありがとう。でもごめんなさい、YはYでも、わたしはもうひとりのYです。スペイン在住で、フランス人と結婚しています……
二次会が始まったので、最後までちゃんと読まずにメーラーを閉じた。他のメールだってチェックしなければならなかったし。で、人違いだとわかった時点で、「特別な思い」の挫折も感じたことだし。(あ、もちろん、もうひとりのYだって、ちゃんと覚えていたし、大切な友人だと思うが……)
二次会、三次会と終えて、帰宅し、さわりだけ確かめて全部は読まなかったメールの数々を読み直した。もちろん、もうひとりYからのメールも。Yの話は続く、こちら(スペイン)で仕事は順調です。個人では裁ききれないほどで、会社も作りました。日本の企業などともつき合いがあり、サラゴサの万博では日本館のお手伝いもしました……
もちろん、花嫁にこのもうひとりのYと知り合ったかどうか確かめたところで、へぇー、奇遇だね、というだけのことだっただろう。二次会が始まる前にこの一文をちゃんと読んでいたところで、忙しい花嫁とそんな話ができたかどうかは疑問だ。でも、メールをちゃんと読まなかったことを悔やむのはなぜだろう?
写真は引き出物にいただいたタンブラー。メールアドレスの間違いは、ぼくの見た名簿が、そもそも間違えていたのだ。もうひとりのYのところには、同じそのアドレスが記載されていた。