昨日のこと、ここに行ってきた。
杉並公会堂。
渡辺香津美「ギター・ルネッサンス」。
同名のアコースティック・ギター・ソロのアルバムをシリーズVまで出している渡辺香津美が村治奏一(第1部)、戸田恵子(第2部)をゲストに招いてのコンサート。ビートルズのナンバーから始めた。「アクロス・ザ・ユニヴァース」はそのアルバムのひとつ収められていたと思うのだが、続いて弾いた「カム・トゥゲザー」はなかったのではあるまいか? 常々この曲は歌そのものよりもベースのフレーズやリズム(ギターのカッティング)に魅力があるのではないかと思っていたのだが、こうして渡辺香津美の手にかかると、やはりこのためにある曲なのだと確信を新たにする。村治奏一を招いての「フール・オン・ザ・ヒル」は渡辺が鉄弦のままで村治のナイロン弦と交互に(コーラスごとにということではない)主旋律を奏でるものだから、たとえばレオ・ブローウェル/鈴木一郎のデュオとはずいぶんと趣を異にする。鉄弦の金属音とナイロン弦の澄んだ音色とのコントラスト。
そうしたコントラストがさらに強調されていたのは、「リベルタンゴ」だ。渡辺のギターのシャリシャリとした金属音が、時にカスタネットの響きにも聞こえた。
そういえば村治奏一はソロで「フェリシダーヂ」を演奏して、これも聴き応えがあったのだが、荻窪に来るまでの電車の中で、ヴィニシウス・ヂ・モライス『オルフェウ・ダ・コンセイサォン』福嶋伸洋訳(松籟社、2016)を読み終えたのだった。あ、つまり、「フェリシダーヂ」は映画『黒いオルフェ』のテーマ曲で、『オルフェウ・ダ・コンセイサォン』は原作。そういう連想だ。
ただし、この戯曲はオルフェウスの神話を下敷きに、韻文で書かれた抽象性の高い作品。丘に住むギターの名手オルフェウが死んだ婚約者ユリディスをおって冥府におり、戻って後には発狂するという話。使用する曲を指定するなどして、ボサノヴァの産みの親のひとりであるモライスが、その新しい波をプロモートしているようにも読める。映画版の黒人表象のエキゾチズムを嫌ったというが、戯曲は、なるほど、神話と音楽とが鳴り響くのみだ。
訳者福嶋伸洋によるあとがきが充実している。
さて、第2部のゲストは戸田恵子で、この元アイドルにして女優、かつ声優もこなす人が、実はジャズ・シンガーでもあったということを僕は不覚にも知らなかったので、喜ばしい驚きであった。アンコールで出てきた時には、「わたしがいちばんうまく歌える歌です」などと言ったから、まさか、と思ったが、しばらくイントロを聴いていると、やはり違うだろう、と不思議な安堵を覚えたものの、実はまったくそのとおりで、つまり、「アンパンマン」のテーマだったのだ! 盛り上がった。
アンコールと言えば、村治奏一は「ロマンセ」と「アルハンブラの思い出」という実にスタンダード過ぎる曲をやったのだが、渡辺香津美がレオ・ブローウェルを思い出させるようなフレーズを含む伴奏で音に厚みを与えて素晴らしかった。最後は「ヘイ・ジュード」で締めた。
コンサートを終えるともう暗くなっていた。
夜は広尾のメキシコ料理サルシータで友人たちと楽しく過ごした。