とある授業で次の小説を読んでいる。
Lucía Puenzo, Wakolda (México: Tusquets, 2011)
ルシア・プエンソはルイス・プエンソ(『オフィシャル・ストーリー』など)の娘にして自身、映画監督でもある。で、この小説を自分で脚色し、映画化したのが同名の映画(アルゼンチン、スペイン、フランス、ノルウェイ、2013年)。邦題は
『見知らぬ医師』(オンリーハーツ)
小説内のある科白の後の文章が、構文は難しくないのだがどうにも意味内容が納得がいかず、何かのヒントになればと、その科白を映画で確かめてみようとしたのだが……結局、その科白は別の人物が別の場所で発していたのだった。
『見知らぬ医師』は実在のナチスの人体改造実験を推進していた医師ヨーゼフ・メンゲレをモデルとしたフィクション。メンゲレはリオ・デ・ジャネイロの海岸で溺死するのだが、その前にアルゼンチンに隠れていたという話。
ブエノスアイレスを離れ、バリローチェというパタゴニアの街に逃げる途中のメンゲレ(アレックス・ブレンディミュール)が、エンソ(ディエゴ・ペレッティ)とエバ(ナタリア・オレイロ)の夫妻の娘リリット(字幕ではリリス、フロレンシア・バド)に目をつけ、道案内を頼み、ついでエンソたちが死んだエバの母の後を継いで開いた宿屋に投宿する。年のわりに背の低いリリットに身長が伸びるホルモン治療があるとして持ちかける……
ナチを逃れて多くの人が、そして多くのユダヤ人が逃げてきたアルゼンチンにはアドルフ・アイヒマンも潜入していた。メンゲレを助ける元ナチ医師グループの存在がなかなかに恐ろしい。原作小説では人体を改造することに心血を注いでいた医師(小説内ではホセを名乗っている)のリリットやその他の人間に対する眼差し、あくまでも被検体に対する眼差しが、時に笑いすらも産み出す。さすがに映画ではこうした心理に立ち入ることまではできていない。代わりにリリットのナレーションが伝えていた。また、小説の言葉にはもう少し彫琢が欲しいと思うところがあるのだが(不用意に同じ語をすぐ近い場所で繰り返したりということがある)、小説にはない言語外の要素、音楽と映像は美しい。
写真はイメージ(昨日、東京都写真美術館ホールで買ったホセ・ルイス・ゲリンの新作前売り券のおまけにもらった絵葉書)。