2012年12月3日月曜日

映画をハシゴする日曜日


映画の日の翌日、映画をハシゴした。

まず、ウディ・アレン『恋のロンドン狂想曲』アメリカ、スペイン、2010

熟年離婚の夫婦(アンソニー・ホプキンス/ジェマ・ジョーンズ)とその中年娘夫婦(ジョシュ・ブローリン/ナオミ・ワッツ)、2組のカップルのW不倫(?)のゴタゴタをアントニオ・バンデーラスやフリーダ・ピントも交えて描いたロンドンもの第4作。W不倫ものでは結局はどのカップルも元の鞘に収まりました、というのもあるが(『夫たち妻たち』だっけ?)、今回はそうはいかないところがミソ。

パンフレットで南波克行がとても貴重な指摘をしている。饒舌なアレン映画の登場人物たちは、しかし、心が動いて恋に傾く瞬間、沈黙するのだと。

人の感情がぐらりと揺れ、心に火がつくこうした瞬間を目に見せる演出術は屈指のものだ。なぜならその場面だけは、会話の多いアレン作品において、決してセリフの入らぬ沈黙の場面となるからだ。こうした場面で、対象を粘り強く凝視する手腕が、映画の格を高めている。

南波は『ギター弾きの恋』を例に挙げているが、『マンハッタン』でダイアン・キートンとウディ・アレンが黙ってブルックリン橋を眺めるシーンなどもこの分析に値するだろうか。

ともかく、そんな印象的な沈黙のシーンは、今回は、グレッグ(バンデーラス)とサリー(ワッツ)のオペラ鑑賞(ドニゼッティの『ランメルモールのルチア』だ。『ボヴァリー夫人』で主人公が観に行く名高いシーンのあのオペラ)後の、車の中でのやりとり。ナオミ・ワッツ、さすがの演技力だ。

ホプキンスやブローリンがカメラをじっと正面から見すえる瞬間、これもアレン映画の大きな特徴だ。

続いてマノエル・デ・オリヴェイラほか『ギマランイス歴史地区』ポルトガル、2012

オリヴェイラのほか、アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ビクトル・エリセの計4人によるオムニバス。ヨーロッパ文化首都ギマランイスの文化事業の一環らしい。トーキョー・フィルメックスでの上映で、今日はペドロ・コスタのアフタートークつき。

他店との関係から突然、店のメニューを気にしてしまうバーテンダーの1日を撮ったカウリスマキ、ヴェントゥーラという人物がエレヴェータの中で出会う鉛の兵隊と会話し、頭の中にいくつもの声が渦巻くコスタ作品、廃墟になった工場で、映画を作るために昔の工員たちの思い出話をカメラテストがてら聞くというエリセ作品、観光客ガイドにこの土地の歴史を語らせ、最後に冗談を言わせて肩をすくませるオリヴェイラ。4人ともに個性の出た短編ばかりであった。

A Sense of Home Filmsの「アナ、3分」も意外にストレートにメッセージを伝え、かつひとりの人間がメッセージを伝えるだけでも、作り方によっては映画になり得るのだということを示したエリセが、今回は国民経済とグローバル化によるその危機とを驚くほど包み隠さずに工場従業員たちに語らせ、それでもアコーディオンのメロディーをBGMに、往時の写真をクロースアップと編集とで見せれば映画になるのだということを示している。