2012年7月21日土曜日

そしてやっぱり映画を見よう


ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン『ル・コルビュジエの家』(アルゼンチン、2009)を試写会に呼んでいただいて、見たのだった。トレイラーはこちら

傑作だ。いや、傑作というか、何というか、しゃれた、スタイリッシュな映画だ。

白と黒に二分割された画面から始まるオープニングが、すでにしゃれている。黒い部分をハンマーで叩くと、白い部分からセメントくずが落ちていくので、これが表と裏を表しているのだということがわかる。やがてポッカリと穴があき、しゃれた始まりだと思った自身の価値判断が恥ずかしくなるような、一種、暴力性とでも呼ぶべきものがむき出しになる。先入観にポッカリと穴があくのだ。

うむ。やるな。

ブエノスアイレス州ラプラタに実在するル・コルビュジエ設計になるクルチェット邸に住むデザイナーのレオナルド(ラファェル・スプレゲルブルド)が、壁に窓用の穴を開けた隣人ビクトル(ダニエル・アラオス)に悩まされ、侵食され、脅され、なったつもりもないのに友だちだとされて友情を押し売りされ、……というコメディ。コメディでなければ隣人の脅威の向こうに見え隠れする暴力の話。かと思いきや、最後の10分くらいで急展開。そしてやはりしゃれた感じのエンドロールが現れると、唸らずにはいられないのだな。傑作だ。いや、スタイリッシュな映画だ。

原題はEl hombre de al lado 『隣の男』。ビクトルの恐さに焦点を当てたタイトルだ。邦題はクルチェット邸でオールロケのデザイン性を強調しているという次第。ガラス張りの壁越しにロングショットで屋外が見えるシーンで、手前の、焦点から外れた位置に同じくル・コルビュジエのシェーズ・ロングが置かれていたりするところなど、細部の作り込みが、この題を決定させたのだろうな。レオナルドがデザインして彼を有名にしたという椅子も実在するデザイナーによる実在する椅子だ。これがまたすてき。

最後の展開は、もうすぐ邦訳の出るセサル・アイラなどを彷彿とさせる……と、さりげなく宣伝しておこう。

どさくさに紛れてもう一言、宣伝するならば、ビクトルがアルベルトに差し出すイノシシのマリネ、この扱いは去年邦訳の出たカルロス・バルマセーダみたいだ。アルゼンチンはアイラ的なものとバルマセーダ的なものが混然となる物語に満ちている?……

牽強付会だが。