2011年7月7日木曜日

まだまだ週の半ばの木曜日、きつい1日

大学院生でふたりほどベルナルド・アチャーガというバスク作家を扱う者がいる。そのうちひとりが『孤独な男』という、かつてETAのテロリストだった人物を扱った小説を読んでいる。そんなわけで、

ベルンハルト・シュリンク『週末』松永美穂訳(新潮社、2011)

に興味を覚えたら、ちょうどご恵贈をいただいたのだった。アチャーガの参考になるかどうかはともかく、しかも、アチャーガ以前に、読んでみた次第。

ドイツ赤軍のテロリストだったイェルクが恩赦を得て釈放され、姉のクリスティアーネのはからいで、大学時代の友人たちとともに郊外の別荘で週末を過ごす、という話。ジャーナリストで、イェルクに自分を警察に売った当事者ではないかと疑われているヘナー、かつてイェルクに憧れていた学校教師で、自殺したテロリスト、ヤンの小説を執筆しているイルゼ、歯科技工士で俗物である自分に屈折したルサンチマンをいだくウルリッヒとその妻、有名人と寝たいとイェルクに近づくその娘、牧師のカリン、弁護士のアンドレアス、クリスティアーネの同居人マルガレーテといった面々だ。

役者松永美穂は「密室劇」と呼んでいる。これがコメディだったらシットコムと言うのだろう、ある場所に複数の人が集まってきて、そこに人間関係が展開されるという話。上に挙げた仲間だけでなく、イェルクをまたテロリズムに復帰させようとするマルコや、建築を学ぶ学生ゲアトなどが、途中からなんらかの秘密を抱えて加わり、登場人物たちのやりとりはますます緊迫していく。

周囲の人々に問い詰められ、納得のいく答えをださないままのイェルクの秘密……というか、その態度の原因のようなものが少しずつ明かされ、最後には最大の秘密が、可能な限り最も大袈裟なしかたで明かされる。こうした作り方はうまいと思う。一方で、イェルクの取り得たかもしれないもうひとつの道を辿ったようなテロリストの小説を書くイルゼの存在が、典型的に「文学」的だ。

この表紙の写真は、デジタルカメラの普及でやたらとみんなが撮るようになった、絞り値を小さくして焦点以外の場所をぼかしたもの。68年の世代の者たちが郊外の別荘に閉じ込められる密室劇ではあっても、携帯電話にメールを駆使し、「キャラクター」作りに専念する少女の出てくるこの小説は、現在のものなのだぞ、と訴えているかのようだ。

……さ、そんなことより、授業に関係する本も読まなきゃ。