二葉を探してつる子を見つけたので、行ってきた。林家つる子独演会@日本橋社会教育会館。
昨年のNHK新人落語大賞を受賞した桂二葉(かつら によう)という人物が実に興味深く、彼女のYouTubeなどを覗いてみると東京でも独演会を開くとか開かないとか言っていたので、探してみたらそれらしいものは見つからず(正確に言うと、既に完売していた春風亭一花とのふたり会以外では見つからず)、代わりに(?)つる子の独演会の情報を見つけたので、彼女にも興味のあった僕としてはまあいいか、何かのついでだと思って行ってきたのだ。
つる子と二葉はくだんの落語大賞の決勝戦に残った二人の女性落語家。結果は二葉が満点で史上初の女性大賞受賞者となった。ふたりは東京と大阪というだけでなく、実に好対照だと思う。
つる子は長いとまでは言わないが短くはないウェーヴのかかった髪を高座ではびっしりとひっつめ、男物の着物を着て、その整った顔をこれでもかと歪めて表情を作ってそれをも笑いに転じようとする。そのくせ古典を女性の立場から語り直すなどしている。「芝浜」をおかみさんの立場から語りなおしたいと表明しているのをどこかで見て、いつか見たいものだと思っていたのだが、それは既に架けたことがあるらしく、先日、NHKのドキュメンタリーでその様子を扱っていた。
二葉はマッシュルームカット……というかおかっぱで(かつてはアフロだった模様)やんちゃな男の子のような童顔。誰かがじゃりン子チエのようだと言っていたが、首肯できる。表情を作っていますという素振りは見せないのだが、高い声を基調に様々に声色を使い分ける。男の子のような童顔と書いたけれども、似合わないからと男物の着物を着ることを拒み、女物で通す。そして正統派の古典をやる。
(こんな感じ)
で、まあ、ともかく、そんなわけで、今回は二葉ではなく、つる子を見てきたわけだ。
「バレンタインデー・キス」の出囃子に乗って出て来て、タクシーの運転手との話をまくらに人力車に話を持っていき、どうやら得意の演目らしい(YouTubeにも上げている)「反対俥」のアクションで笑いを取る。二席目は柳家小ゑんの新作「ぐつぐつ」。おでんの具の会話なのだが、かぐやひめの「神田川」をモチーフにしたカップルの会話などをはさんでめっぽうおかしい。
三席目、最後は「芝浜」ならぬ「子別れ」をおかみさん(お徳)の立場から語り直したもの。
「子別れは」上・中・下とあって通しでやるととても長い話なのだが、おそらくいちばんポピュラーなのは下の別名「子は鎹(かすがい)」。酒と女で身を持ち崩し、妻と子に出て行かれた大工の熊五郎が心を入れ替えて酒を断ち、子供と再会、妻と復縁するというのがおおよその内容。その父と子の偶然の再会を描かず、女手ひとつで子(亀吉)を育てるお徳のつらさをたっぷりと語り(その間に上と中の内容もダイジェストで織り込み)、熊と亀が再会しているはずの時間に、亀の帰りが遅いと心配する長屋の女連中の井戸端会議を創作してここで笑いを取り、人情話を湿っぽいだけのものにしない配慮が嬉しい。そして彼女はこういう女たちのシーンが実にうまい。アクションと表情だけではなく、間や話の中身が実に面白いのだな。時代が一気に明治のころから1980年代くらいまで下る感じがするが、それくらいのことはあっていい。