ついこの間『バードマン』で娘役のエマ・ストーンにやられ、ついつい見に行った、別のエマ・ストーン(というのは半分冗談。彼女が出ていなくてもきっと見に行ったはず)。
ウディ・アレン『マジック・イン・ムーンライト』(アメリカ、イギリス、2014)
オープニングのBGMは "You do something to me". 1928年ベルリンから幕が開く。中国人に扮し演技をする(『春の祭典』、『ボレロ』などをBGMに)手品師スタンリー(コリン・ファース)のもとに友人のハワード(サイモン・マクバーニー)が訪ねてくる。プロヴァンスに住むハワードのおばヴァネッサ(アイリーン・アトキンス)の隣人の家に取り入るアメリカ人霊媒師ソフィ(エマ・ストーン)の化けの皮を剥いで欲しいと頼むのだった。
今回に限り「英国紳士」という語を使いたくなる、アイロニカルなイギリス人のハワードは懐疑心たっぷりにソフィアに近づくのだが、過去を言い当てられたり、交霊会での心霊現象を目の当たりにしたりして、動揺する。ソフィアは周囲が眉根をひそめるようなハワードの皮肉の対象となりながらも、最初から彼に好意的なようだ。
イリュージョンと交霊会(séanceと呼ばれる。映画や演劇の一回のセッションの意だ)。19世紀末にヨーロッパで流行ったふたつのまやかし("She is a visionary and a vision"というセリフがある。ちなみにこの"vision"は「美人」だ)の対決だ。ひとつはタネがあることを誰もが知っていて、もうひとつはタネがないからこそ驚異だとされるセッション。霊媒師の噓とマジシャンの理性の化かし合い。恋の物語につきものの理性と感情の背反に揺れ動き、その論理がストーリーの展開(転回)を支えている。アレン特有の知性への根本的懐疑が顔を覗かせる。
ふたりが雨宿りして天文台に忍び込む場面がある。夜になり、雨があがり、屋根を開いたときに、細長いスリットから見える三日月。この瞬間がマジック。というのがタイトルの意味。