2014年5月18日日曜日

さあ、読んどくれ!

アレッホ・カルペンティエル『失われた足跡』牛島信明訳(岩波文庫、2014)

満を持して(?)岩波文庫で再刊だ。ぼくの運命を変えた1冊だ。ぼくは30年前にこの小説に出会い(翻訳出版はそれよりもう少し前。原書は1953年だから61年前)、これで学部の卒論を書いたのだ。

出会いから10年後、94年に集英社文庫として出されたときには、大学院生だったぼくはそこに「解説」を書いたのだった。(今回、それはなし)

が、そのことよりも重要なのは、集英社文庫に収めるに際して、訳者の牛島信明先生は少し訳に手を入れた、そのときの修正のひとつは、ぼくの卒論がもとになっているということだ。

とは言え、たいしたことではない。それは本質的な改訳ではない。主人公=語り手の愛人Moucheを、当初の訳では、スペイン語話者ならこう読むだろう、という勘にしたがって「ムーチェ」としていた。ぼくは卒論でこの人物がサルトルの戯曲『蠅』Les mouches から採ったのではないか、との推論を展開した。まあ、これをムーチェと読むかムーシュと読むかはどちらでもいいことだとは思うけれども、ともかく、94年、牛島先生は、あれ、ムーシュにしといたよ、君の説を受けて、とおっしゃったのだった。

ぼくが84年に初めて『失われた足跡』を読んだときには、サルトリアンであるなあ、という感想があったのだ。ふたりはほぼ同年で、同じころに死んでいる。でも、小説は、掛け値なしに、サルトルより面白い。


とぼくは思うのだ。