日曜の朝、電話が鳴った。
母だった。
「こっちは雨だ。大雨だ」
沖縄・奄美地方が梅雨入りだと報じられたのはもうずいぶん前のことだ。そりゃあ、雨も降るだろう。大雨の降る日もあるだろう。が、母上、変なことを言い出した。
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。森の狼が腹を空かせ、ふたりを食べにやって来ました。家の外から中の様子をうかがう狼に、おじあいさんとおばあさんの会話が聞こえてきました。
ばあさんや、世の中に〈降る〉と〈漏る〉ほど怖いものはないな。
ああ、おじいさん、本当にそうですねえ……
それを聞いた狼は、おじいさんとおばあさんが自分のことを恐れていないと知り、すごすごと帰っていきました。
……
なんだろう、この昔話? 知らないな。それとも母が即興で考え出したのか? 最近、雨漏りが激しくて家の屋根を張り替え、その代金を全額出した息子に対する屈折した感謝の表現なのか? それでせっかくできたわずかばかりの蓄えがなくなってしまったその次男坊への慰めの物語なのか?
うーむ。わが母がこんな語り部であったとは、知らなかった……