吉田拓郎『ah-面白かった』(AVEX)
既にどこかには書いたことだが、僕が生まれてはじめて自分の金で買ったレコードは吉田拓郎(当時はよしだたくろう)『元気です』(CBSソニー、1972)だ。僕は決して吉田拓郎のファンらしいファンではなかったけれども、それでも最初に自腹を切って聴く気になったミュージシャンであり、ある一時期の僕を規定した人物のひとりには違いない。その彼が人生最後のアルバムと称して出すものを買わないでいられるわけはない。
タイトル曲が最後にあり、しかもそれはこのフレーズ「あー、面白かった」で終わるのだが、曲内で何度目かになる「あー」のこの最後の叫びが、実によくて涙なしには聴けない。そんなアルバムが、今日、届いた。
何よりも嬉しいのは「雪よさよなら」。これはごく初期の、最初の個人アルバム『青春の唄』に収め、その後、猫というユニットに提供した「雪」という曲に原曲に存在しなかった3コーラスめを加え、小田和正に編曲とコーラス、そしてヴォーカルを頼んだ作。ライナーノーツで言うには、拓郎自身が当時のアレンジを気に入らず、その後歌っていなかったこの曲を小田に頼んで蘇らせたのだとのこと。今回のものは気に入っているらしい。小田とのコラボレーションという意味でも。
実は僕はこの曲がかなり好きで、しかも拓郎自身が気に入らなかったという『青春の唄』のヴァージョンが好きで、折に触れて思い出し、ギターをつま弾いては口ずさんだりする曲のひとつなのだった。ライナーノーツの内容とほぼ同様のことをどこかでしゃべった記録を、実は昨日YouTubeに薦められて聴いて知り、ひょっとしたら拓郎自身と僕の決定的な趣味の違いを露呈する結果になっているのだろうかと、危惧しつつ、待ちきれず聴いたら、まったくの喜憂で、これもまた素晴らしい仕上がりであった。
付属していたメイキング映像のDVDによればヴォーカルのレコーディングを終えて花束ももらった後になって、2、3、シャウトを入れた方がいいと思いついて新たにそれを録音したらしい。こうした態度がファンには嬉しい。シャウトは彼の持ち味のひとつなのだから。