2021年4月8日木曜日

ただの枠のみでなく


クラリッセ・リスペクトル『星の時』福嶋伸洋訳(河出書房新社、2021)


とても単純な物語を複雑な語りの行為によって重層的に意味づけするのは小説の小説としての強みだが、リスベクトルの『星の時』はその語りが複雑でくせ者だ。


物語の内容は、ブラジル北東部出身の貧しい女性マカベーアが、オリンピコという同郷の男に恋をし、しかしオリンピコは彼女の仕事仲間のグローリアに恋をしたので、ふられることになる。グローリアのすすめと援助でカード占いに見てもらったマカベーアは、直後、車に轢かれる。


170ページほどの決して長くない小説だが、それにしてもこのストーリーも短い。小説の半分くらいは語り手ロドリーゴ・S・Mの語りが占めている。語り手は書くことの意味を語り、自身を語り、マカベーアの自意識と彼女の置かれた状況を客観的に評価する見方とのズレを語り、そして時には疲れて語ることを中断し、三日も(!)休んだりしている。


スザーナ・アマウラによる映画版(1985年)はこの語りの部分を省いているそうだが(未見。これから見る。YouTubeに全篇が上がっているので)、枠物語の枠がなくなる(『カルメン』などのように)という以上にこれは大きな違いを生み出すことになりそうだ。