佐藤究『テスカトリポカ』(KADOKAWA、2021)
書評を依頼されたのでプルーフで読んだ。プルーフと言ってもふだん校正用に使う大判の紙に見開きで印刷されたゲラではない。こんなふうに(右)製本されている。いわゆるadvance reader’s copy とか advanced proof とかいうやつだな。当然、通常のゲラよりだいぶ読みやすいし、持ち運びも楽で助かった。ペーパーバック好きの僕としては単行本よりもこの方がいいというくらいだ。
で、佐藤究。これがめっぽう面白い。僕の書いた書評は来週掲載予定なので、今は多くは言えないのだが、移民小説だったものにナルコ小説が接続され、やがてそれが臓器売買小説に変じていく、という内容。ある人物がメキシコから、そう期待されるようなアメリカ合衆国へは流れず、まずは日本へ移住して根付いて子を産み、その後、別のある人物(麻薬カルテル幹部)がメキシコから南米、アフリカ、オーストラリア経由でインドネシアへ、そしてそこからまた日本へ、川崎へと流れて壮大な犯罪を企む小説だ。しかも、タイトルが示しているように、この犯罪世界がアステカの世界へとつながって行く。うーむ……アステカの人びとが人身御供の儀式を行っていたと言われていて、その残虐さが伝えられており、つまりそれを利用しているのだが、ことさらその暴力性を強調するのはいかがなものかとの思いもある。が、僕はそのアステカ社会についての伝聞の信憑性を判断できる立場にないし、ともかく、その判断を保留してしまえば、その利用のしかたはうまいなと思う。犯罪小説に過度な倫理を求める必要もないかとも。実際、僕はともかく、かなり面白く読んだのだし。
書評には書かなかったことだが、佐藤究はどうやら(他の小説なども読むに)剝き出しの肉体による暴力に興味があるようで、この小説にもかなりの巨漢の怪力たちが出てくる。そしてバタバタと人を殺す。これがだいぶ痛快で、読者にカタルシスをもたらすのだろうと思う。つまり、徒手空拳の格闘アクションものの趣も帯びているのだな。この要素が、上に書いた一種の不信感を払拭させてくれもする。
プルーフに貼った付箋を、こうして実物に貼り替える。書き込みやマークまでコピーはしなかった(文庫化された小説などに関して、こうした作業をよくやる。付箋を同じ箇所に貼り、書き込みを写す/移す)。