水曜日は3限に早稲田の教育学部での授業、5限には東大に戻って(「戻って」という動詞は正しいのか?)授業、という日。ところが今日はもう東大は授業がない。早稲田はある。つまり、3限後は、いわば空き時間。
で、授業後、久しぶりに戸山公園に足を向けてみた。早稲田の戸山キャンパス(文学部キャンパス)の隣にある公園だ。それを取り囲むように都営住宅の団地がある。
さすがに、まだ雪に覆われていた。
僕がてっきり戸山富士だと思っていた箱根山は、登山道はたいていはきれいに雪かきされていたのだが、一箇所、氷結していて、結局、上るのを諦めた。回り込んでもうひとつの側から行けばどうだったのだろうかと帰り道に考えたが、後の祭り。
ついでに穴八幡にも寄ってきた。
なぜ戸山公演に行く気になったのだろう?
たぶん、これだ。
そして、その中心には、山がある。標高四十四メートル。山手線内でいちばん標高が高いとはいえ、見た目はちょっとした丘という程度だから、遊歩道の脇に設置された「登山道入り口」という看板を大げさだと千歳は笑ったが、実際に上ってみるとけっこうな急斜面で、確かに「山」だと思った。(略)
今、山の頂上には、その来歴や「登山証明書」を発行する旨が書かれた案内板がある。欅の梢で視界が遮られるが、それでも団地の高層棟、すぐ近くにある大学の校舎、新宿の超高層ビルが、ぐるりと見渡せる。欅の大木に覆われた斜面は森のようで、ここが新宿からすぐの場所とは思えない。
これは柴崎友香『千の扉』(中央公論新社、2017)13ページからの引用。
これをいただいた話は、かつて書いた(リンク)。サインつきだ。へへへ。
千歳という大阪の似たような団地で育ち、結婚して夫の祖父のものだったこの団地に住む女性の話を軸に、グランド・ホテル形式で交錯する他の人生をも描いていくこの小説が面白く、いい感じだったので、きっと気になっていたのだろう。戸山公園を取り囲む戸山団地がモデルだとどこかで聞き知って、それが念頭にあったに違いない。もう何十年ぶりになるかわからないけれども、ともかく、久しぶりに足を向ける気になったのだな。
でも、それは意識の表面にはなかったことだから、帰ってからこの記述を読み返し、実にこの箱根山の記述が素晴らしいと確認すると同時に、ああ、どんなことをしても山頂まで登っておくのだったと後悔した次第。
雪が溶けたら時間のあるときに行ってみよ。
帰りがけに、文庫化された『パノララ』(講談社文庫)も買ってきた。
『世界イディッシュ短篇選』西成彦編訳(岩波文庫、2018)
山本義隆『近代日本一五〇年——科学技術総力戦体制の破綻』(岩波新書、2018)
とともに。