その昔、ポスターの最終校正を電話で伝えたとき、印刷用語としてのナカグロ(「・」)が伝わらず、「フランシスナカグロベーコン展」のポスターが出回ったのはもう30年くらい前の話。その時には存在しなかった新たな三幅対など数点を携えて、どうどうたるフランシス・ベーコン展。立派なものでした。
ぼくの頭には「フランシス・ベーコン」の名とともに常に「・」が浮かぶのだが、ベーコンの絵は異形と奇形、偏執と動きの他にも、確かに印象的な「・」が打たれていた。たとえば「自画像のための習作」(1976)などだ。
穴と動き、こそがベーコンだ。今回面白かった試みのひとつは、土方巽の舞踏「疱瘡譚」とそれにまつわる舞踏譜(そんなのがあるのだね)や、ペーター・ヴェルツ/ウィリアム・フォーサイスによる映像インスタレーション「重訳/絶筆、未完の肖像(フランシス・ベーコン)/人物像を描き込む人物像(テイク2)」などが展示されていたこと。
ベーコンの描線を表現するには、あのように動くべきなのだ、と、そういいたくなるのもわかる。
人がたくさんいた。火曜の昼だというのに。
所蔵展では、ジャクソン・ポロックの時には展示されていなかった(と思う)アンリ・ルソーやブラックが出ていた。ルソーの「第22回アンデパンダン展」は近代美術館の宝だ。