2020年11月23日月曜日

アナ・トレントが懐かしい

フェリックス・ビスカレット監督『サウラ家の人々』(スペイン、2017)@K’s Cinema


原題はLos Saura ではない。Saura(s) だ。つまり、サウラ家の人々(のみ)の意でなくサウラの複数の作品、ということか? 


サウラは正式ではないジェラルディン・チャップリンとのものを含めると4度の結婚をし7人の子をもうけている。ジェラルディンとの子シェーンはアメリカ合衆国在住で、これに出ることはできなかったのだが、映画はその他の6人の子どもたち(と現在の妻エウラリア・ラモン)との会話からサウラの過去についての話を引き出そうと意図するもの。サウラ自身は過去を語りたくないと言い、なかなか監督のビスカレットの思いどおりにはいかない。


そこで用意されたのが、自宅のアトリエではないスタジオにパネルを立てて光と影のコントラスを捉え、そのパネルに過去の映画の断片や写真を投影し、話のきっかけにするという手法。これ自体がヴィトリオ・ストラーロ的というか、彼を用いてサウラが撮った『フラメンコ』、『タンゴ』『ゴヤ』『ドン・ジョヴァンニ』らを彷彿とさせて素晴らしい。サウラの過去を映し出すにうってつけだ。


スタジオのパネルに投影するものばかりでなく、観客には過去の作品の断片がふんだんに引用され呈示される。いちばん多かったのが『カラスの飼育』であるところが泣ける。


今回の上映にあわせ、K’s Cinema では過去作品の回顧上映もやっており、今日はこの作品の前にはまさにこの『カラスの飼育』(1975)をやっていたのだ。ロビーで開場を待っていると、映写室から挿入歌にしてエンディングの ジャネットの“Porque te vas” (1974)が流れてきた。泣いた。ちなみに、これ、 "¿Por qué te vas?" だと思っている人もいるようだが、疑問ではない。理由説明だ。(リンク)


ちなみに、東京中がマノエル・デ・オリヴェイラの『繻子の靴』8時間一挙上映を観に行っていたという噂の昨日、僕はサウラの『フラメンコ』を観ていたのであった。訳あって、僕もサウラ祭。



写真はイメージ。