2016年4月25日月曜日

出藍の誉れ

昨日は第2回翻訳大賞の授賞式に行ってきた。

パトリック・シャモワゾー『素晴らしきソリボ』関口涼子、パトリック・オノレ訳(河出書房新社)
キルメン・ウリベ『ムシェ 小さな英雄の物語』金子奈美訳(白水社)

が受賞。

クラウド・ファンディングによって資金を集め、インターネット上の推薦の数で上位のものと審査員の推薦による15冊から選ぶという翻訳に焦点を当てた賞。

選考経過の話、受賞作の話、授賞式、受賞者の言葉、受賞作品の受賞者による一部朗読、などと続いた。『ソリボ』の口上を読む関口涼子のパフォーマンスに圧倒された。『ムシェ』の方はキルメン自身の朗読がビデオで流れてから同じ部分の翻訳を金子奈美が読むという順で、それもまた大変良かった。

会場からの質問も受けつけ、その最後に小説家の星野智幸がクレオール語にしてもバスク語にしても歴史の重みを背負った少数言語であるわけだが、それを日本語に訳すに際して、どのような心持ちであるのかと訊ねた。関口さんは沖縄の語りを聴きながら訳したと答え、その一部が会場に流れた。金子さんはバスクの疎開児童に関する小説を訳し、それについて書いてもいる歴史家狩野美智子さんが長崎の被爆者であったこと、そしてまた日本の大学で最初にスペイン語を教えた田村すず子さんがアイヌ語学者であったことなどを紹介して会場を唸らせた。

その後のパーティでは、なぜか僕にも挨拶の機会が回ってきた(その経緯については、誰かと話していたので、全然わかっていない)ので、金子奈美に(バスク語ではないけど)最初にスペイン語を教えたのは僕であること、以後、僕はそのことを自慢に人生を過ごすことになることなどを述べた。


本当は、最初にスベイン語を僕が教えたわずか数年後、『野生の探偵たち』を翻訳している時には、彼女にはだいぶ誤訳などを指摘してもらったので、その教える教えられる関係は逆転したようなものなのだけどな。自慢くらいさせてくれよ、ってな心境だ。


あ、そうそう。セサル・アイラ『文学会議』拙訳(新潮社)もある程度の数の推薦を受けたのだけど、柴田元幸さんがオビの推薦文を書いているので、選考委員の関係する本は除外するというこの賞の規定に従い、選考対象から外されたとのこと(少なくとも僕はそういう話を聞いた。単なる思いやりかもしれないけれど)。推薦してくださった皆さん、ありがとうございます。もっとも、選考の対象になって、金子さんが受賞、僕は選外、ということになっても悔しかったかも。できのいい教え子に対する感情は複雑なのだ。ふふふ…… ひとりでも推薦してくれるか方がいたという事実だけで、充分報われた思いだ。

(※金子さんの受け答えに関しては、当初、記憶違いがあったので、訂正しました)