2021年7月9日金曜日

老いとスパイとニブと

マイテアルベルディ監督『83歳のやさしいスパイ』(チリ、アメリカ、ドイツ、オランダ、スペイン/配給アンプラグド、2020年)


トレイラーを観ても、『すばる』8月号掲載の野崎歓による映画評を読んでも、てっきりフィクション、というか、劇映画だと思い込んでいた。が、ドキュメンタリーなのだそうだ。驚異である。


もうすぐ83歳になるセルヒオが新聞広告に応募して探偵社に雇われ、老人ホームに潜入調査に向かう。ターゲットとなるソニアの子供が依頼主。ソニアがホームで虐待にあったりしていないか、窃盗に遭ったというが職員に泥棒がいるのではないか、それを調査に向かうのだ。女性の入居者が男性の10倍ばかりもいるそのホームで、新入りでスーツを着たセルヒオに恋する者(ベルタ)が現れたり、詩作して歓迎する者(ベティタ)がいたり、認知症なのか母親が迎えに来ると信じては外出したがるばかりか、手癖も悪い者(マルタ)がいたり、自身の記憶と論理の整合性に自信が持てずに不安を抱える者(ルビラ)がいたりして、それらの人物とセルヒオがことごとく向き合い、対処し、時には癒やしていくのだから、物語性はたっぷりだ。ドキュメンタリーだということがにわかには信じられないのだ。


広告に吊られやってきただけのセルヒオが、手癖の悪いマルタを結局はいちばん近くにいて(そして彼女の被害者であるはずのソニアすらもが)相手にしたり、ルビラを癒やすべく「泣いて良いのだ」とアドバイスし、彼女の娘や孫娘の写真を手に入れて癒やすなど、すぐれた知性を発揮するのも驚き。


探偵など雇って心配するより、家族が会いに行くのが老人にとっては一番の薬、というのは予想しうる主張であるし、予想しうる主張だとしても感涙を禁じ得ないのだが、そうした感動などよりも、やはりあくまでも驚きなのは、これがドキュメンタリーとして撮影されているということだ。クルーはセルヒオが潜入調査に入る2週間前にホームでの撮影を始め、たまたま入ってきた新入りであるセルヒオを追うという形で撮影を続けたのだという。監督が言っている「ドキュメンタリー映画製作者として私が用いる手法は、ロムロ(セルヒオの雇い主。つまり、探偵)が用いる手法と似ている」(プログラム: 9-10)。アルフォンソレイェスが言うように、スパイとジャーナリズムは根が同じなのである。




モンブランのマイスターシュテュック149のニブ(ペン先)のEFが細すぎたので、ペリカンのスーベレーンM800はMを使っていたのだが、ペリカンはモンブランよりペン先が太いので、これのEFがちょうど良いのだと気づいた。そしてペリカンは簡単にニブの交換ができるので、EFのそれを手に入れた。案の定、実にいい。(下は軸に装着したところだが、ピントの位置がずれているように思う)