福嶋伸洋「永遠のあとに来る最初の一日」『すばる』八月号、38-62ページ。
『魔法使いの国の掟』と『リオデジャネイロに降る雪』の福嶋伸洋が『すばる』に発表した中編小説を読もうと思いながら時間がなかったので放っておいたのだが、昨日報告した新兵器DPT-RP1 にそのコピーしたPDFファイルを読み込み、やっと読んだのだ。
外国出張から戻ってきたらしい語り手の「ぼく」がふと思い立って、かつてアルバイトをしていた渋谷・宇田川町の雑居ビル5階のカフェの跡を訪ね、そのアルバイト時代を思い出すという体裁。同い年の店長や、DJやヒップホップをしているバイト仲間などを描く群像劇。店長が子供ができて結婚、それに伴って次々と職を変えたり田舎に帰ったりする仲間たちを、独り取り残される「ぼく」が見送る、青春への決別が、福嶋さんらしいリリカルな散文で綴られ、胸が締め付けられる
……と思ったら、これが実は単なる青春群像劇でなく、「ぼく」が忘れたと主張する記憶が、最後に回復される(のか、それとも新たに創造/想像されるのか?)ところが最大のポイントなのだろう。9.11の同時多発テロと3.11の地震を挟む時間の話だと思えば、ますます気になるところ。何より最後の最後の文章が実に小憎らしいのだが、さすがにこれは書かないでおこう。
DJの作法やヒップホップと詩(伝統的な、文学としての詩)の関係、カフェでの料理などの描写も細かいので、きっとこれはそうした細部をもっと拡大して二倍くらいの、短めでも長編と呼べるくらいの長さにして単行本化されるのだろう。というのが僕の勝手な予想。いや、切実な期待。