2016年3月6日日曜日

休憩時間にトイレに立つとホワイエでボルピが立ち話していた

東京国際文芸フェスティヴァルのプログラムで、今回、唯一スペイン語圏で固めたと言っていいイベントに行ってきた。


マヨルガはパトリス・ルコントの『危険なプロット』の原作『最後列の男の子』を書いた劇作家。その彼が聖女テレサと異端審問官の対話の形式で作った短い劇『粉々に砕け散った言葉』La lengua en pedazos を本谷有希子と谷原章介の2人が演じる朗読劇。最初に市川真人による本谷への芥川賞受賞インタビューがあり、それから、朗読劇、そして母親の手術で急遽来られなくなったマヨルガと俳優陣とのスカイプによるトークセッション。

異端が取り沙汰されたこともあるテレサ・デ・アビラ(聖女テレサ・デ・ヘスス)と異端審問官のやりとりであるので、カール・ドライヤー『裁かるるジャンヌ』のように、誰が言葉を牛耳、司るのか、という駆け引きが展開される内容なので、確かに、朗読劇という形式はいいのかもしれない。田尻陽一の訳によるその難しい言葉のやり取りを、谷原章介の美しく朗々たる声と、本谷有希子のクライマックスの法悦の叫びが伝えていた。僕は実は谷原章介という人はTVで何度か見たことがあるという程度の認識しかなかったのだが、実によく通る声で、感服した次第。

ただ惜しむらくは、本谷も谷原も、そして通訳の人までが、実在の人物としてのテレサのことを知らないという体裁でトークを進めたこと。ベルニーニの「聖テレジアの法悦」やら『完徳の道』など日本語で読むことの可能なテレサ自身の著作などは、役作りの段階で読み、触れていてもおかしくはないのだが。

第二部『選ばれし少女たち』Las elegidas は、ある家族の者が恋人として内部に引き入れた少女を売春させているという内容の映画。Jorge Volpi, Las elegidas (2015)の映画化作品……と思って望んだのだが、もう少し複雑らしい。ボルピがトラスカラのテナンシンゴの家族が、20世紀、娘たちを売春させていた、そしてその手法を全国に拡大して、ある家族が娘たちを誘拐し売春させる商売をやっていたという事実を知り、映画にすべきだと思い、シナリオを書いたのが最初らしい。そしてパブロスと準備を進めていたが、パブロスはボルピのオリジナルの脚本から離れて自分のものを執筆、映画化。他方、ボルピはこれを米墨をまたぐプロジェクトとして『四つのコリード』というオペラにもし、加えて、映画ともオペラとも弁別する形で韻文による小説『選ばれし少女たち』を発表したということのようだ。

韻文による小説は、こうした売春の起源をトラスカラのインディオの伝説に求め、だいぶアレゴリカルな雰囲気だし、映画は、セックスをあえてあからさまに描かず、少女の驚いたような表情と音、あえぎ声などのみで表現し、生々しさをやわらげていた。この映画の処理はボルピも気に入ったようで、トークではそう言っていた。

過去二度、来日の予定をキャンセルしていたボルピ。三度目の正直というやつで、来日。パブロスとともにそうした製作過程を語った。