2014年3月1日土曜日

詳しくはウェブで!

今ごろ本屋の店頭には『GRANTA JAPAN with 早稲田文学』Vol. ! (発売:早川書房)という雑誌が並んでいるはずだ。そこにアンドレス・フェリペ・ソラーノ「豚皮」という短編を訳している。まだぼくは実物を見ていないので、ここには書影は掲げられない。

その代わり(?)、昨日、買ってきた。

J.D.サリンジャー『フラニーとズーイ』村上春樹訳(新潮文庫、2014)

折り込みならぬ〈投げ込み特別エッセイ〉つき。サリンジャーは解説のようなものはつけるな、と主張しているので、あるときから先の訳や新版には日本の翻訳書にお馴染みの「訳者あとがき」や解説がつけられない。それで、こんな形になったのだろうと思って、「こんなに面白い話だったんだ!」というタイトルのその冊子を開いてみたら、案の定、そうだとのこと。

大学に入ったころに、『ライ麦畑』の次の1冊として読んだのが『フラニーとズーイ』との最初の出会いであり、そのときは宗教臭が鼻につき、読み終えてそれきりになっていた。今回、翻訳の話が出て読み返してみたら「こんなに面白い話だったんだ!」と驚いて、訳すことにした。何が面白いかというと、つまり、文体だ。『フラニー』は慣らし運転という感じできて、『ズーイ』にいたると一気にドライヴする。素晴らしい。宗教臭については、やはり逃れられないけれども、これは歴史的なものであり、興味のある方はその辺を研究してみるのも良かろう。が、ここではあまりくだくだと説明することはしなかった。「ズーイ」という発音の方が多いように思うので『フラニーとゾーイ―』でなく『フラニーとズーイ』にした。そして最後の一段落:

 紙数の制約もあり、本書の成立事情などについてはここでは書き切れなかった。この小文の長いヴァージョンが新潮社のウェブ・ページに掲載されているので、ご面倒だがそちらにアクセスしてお読みいただければと思う。


つまり村上春樹までが「詳しくはウェブで!」をやっているのだった。


……あ、いや、非難しているのではない。何しろBBC Worldのポッドキャストのニュースですら、最初に必ず、詳細はwww.bbc.comを訪ねてね、と言ってから始める時代だ。避けられないのだ。避けられないから村上春樹ですらそうしている、というのがなんだか愉快だ、と……