2010年5月19日水曜日

知的なものの終焉

 デイヴィッド・ヘアー作、常田景子訳、坂手洋二演出『ザ・パワー・オブ・イエス』(燐光群、ザ・スズナリ)。


 2008年の金融危機についての劇を書くように依頼を受けたデイヴィッド・ヘアーが、金融関係の人々にインタビューして回る話。そこで金融危機の原因(数学的未来予測の視野狭窄、ヘッジファンドやレバレッジ、債権の証券化というまやかし、神話化された市場……等々)を多方面からレクチャーされるのだが、理論通りに行かない市場にメンツを潰されたように感じる証券マン、金融関係者たちの錯綜した矜恃に出くわし、それが劇作家の矜恃とどう違うのだと問われて佇むヘアー。これをジョン・オグリヴィーというイギリス人が日本語で演じていた。金融のことなどちんぷんかんぷんという感じがこうしてわかりやすく提示された。神話化された市場の概念の終焉。知的なものの終焉(というセリフがあったと思う)。そんな時代を浮き彫りにする作品。

 ぼくはつい最近、インタビュー形式という疑似ドキュメンタリー映画の方式を取り入れた小説を翻訳し、それがその小説の面白さだと説くあとがきを書いたけれども、この戯曲も疑似ドキュメンタリーとでもいいたい手法で、効果音や照明など、CBSドキュメントみたいな感じを出していた。

 終わった後のアフタートーク(坂手洋二と常田景子)もいろいろと考えさせられることがあった。会場から、常田さんの翻訳がすばらしいとのコメントが出て、本人、逆に力をいただいたと喜んでいた。

 劇場に向かう途中、同僚と、「先生の本を読みました、なんて言われると嬉しいよね」と話していた身としては、常田さんの気持ちはよくわかる。

 で、嬉しい話は、そのぼくが翻訳したという小説(共訳だが)、重版決定! 今朝、メールをいただき、帰宅してみたら郵便でも連絡をいただいていた。嬉しい。