試写で観てきた(リンク)。(このブログのタイトルと映画の内容は無関係)
ロレーナ・パディージャ監督・脚本『マルティネス』フランシスコ・レジェス、ウンベルト・ブスト、マルタ・クラウディア・モレノ他、メキシコ、2023
グワダラハラとおぼしきメキシコの都市で30年にわたって働いてきたチリ人のマルティネス(レジェス)は、偏屈な独り暮らし。仕事場にはビシッとダブルブレストのスーツを着て行くし、起きたらすぐに腕立て伏せをするような人物だが、会社からは定年退職を勧められ、後任のパブロ(ブスト)に引き継ぎ、研修するように言われる。
一方、古めかしい感じの残るアパートでは、真下の部屋の住人の止まることのないTVの大音量に苛まれている。じつはその住人アマリアは半年ばかり前に孤独死していたことが発覚する。このアマリアの遺品の中に自分へのプレゼントが入っていたことから、粗大ごみ処理されるはずだった残りの遺品を引き受け、小物やクロスなどを殺風景な部屋に飾り始める。残されたテープを聞いたり、彼女のスケジュール表やToDoリストに書かれていたこと(プラネタリウムに行く、など)を代わりに実行に移す。女性雑誌 Vanidades を読み染み取りの方法を知ったり料理を作ったりするようになる。
ちょっとしたことからパブロや昔からの同僚コンチータ(モレーノ)に恋人の存在を勘ぐられたマルティネスは、プラネタリウムで仕込んだ情報を利用してすてきな話をでっち上げ、同僚たちの感動を誘う。
そこから少しずつ同僚と打ち解けていく。
偏屈な老人が心を許していく物語はこれまでにもいくつかあったが、死んだ隣人の遺品を引き受けることによって人格が軟化していくというのは面白い。ガーリーなものは癒やしなのである。いつの間にかエプロンなどを着けるようになっている初老の頑固者がかわいらしい。
TVも仕事場のPCもブラウン管の時代で、スキャナはかろうじて既に存在している、という頃の時代設定。テープレコーダーは埃を払わなければならない。そんな時代にチリ出身でメキシコで30年働いている人物という設定だと、どうしてもピノチェトのクーデタや軍政を期に移ってきたという背景を想像したくなる。映画内では特に説明はされていないけど、そのくらいの想像は働かせたくなる。
これはパディージャの初監督作品とのこと。