2011年8月23日火曜日

街に出たら映画を観よう

エミリオ・アラゴン『ペーパーバード:幸せは翼に乗って』(スペイン、2010)

スペイン内戦末期をプロローグに置き、その終結直後を主な時代設定とする。ホルヘ(イマノル・アリアス)とエンリケ(ルイス・オマール)のコンビが主な活動の場とするバラエティ劇団に、両親を亡くしたらしい子供ミゲル(ロヘル・プリンセプ)が引き取られることになる。ホルヘはフランコ側の空爆によって妻子を亡くしているので、子供にはつらくあたる。このふたりの交流が大きな軸のひとつ。ホルヘは共和派の戦士でこそなかったけれども、どこかの党派の工作員ではあったもようで、書類の偽造なども手慣れたもの。劇団には他にも同志がいて、総じて共和派シンパか、そうでなくてもフランコには批判的な者ばかり。これはこの時代を扱う以上、なくてはならない要素。軍はこうした不穏分子を監視するために、パストールというスパイを大道具係として送り込む。

ときおり、軍の監視を受け、ひやひやさせられる試練をくぐりながら、劇団は地方公演に出る。そしてある日、フランコの前で彼らの公演を行うことになる。ホルヘよりも戦闘的な同志、大道具のペドロ(ハビ・コール)は色めき立つ……

ストーリーはここから二度ほどのどんでん返しがある。中身は言うまいが、とうぜん、ハッピーエンドではない。それを補うかのようにエピローグがある。負けてしまった側の者を描くときに、こうしたある種の来世志向のようなヴィジョンが産み出されるのはしかたのないことだと思う。あまり好きではないが悪くはない。作り方もうまい。最初のころにホルヘが子供を亡くしてしまうのだけど、瓦礫に埋まった腕だけを映して死体を描かないところなど、安心して物語に入り込むことができた。化粧していかなくて本当に良かったと思う。あやうくパンダになるところだった。

老婆心。これからクライマックスに向かうことを予感させる不穏な出来事が劇場で起こる。劇団の若い団員を気に入ったらしい軍人が、任務でもないのに興業を観に来たので、ホルヘが「フランコとは暮らせない」という歌を歌う。この歌、たとえば「パインを買いたいのにザクロも買えない」「1フランでは生きていけない」というダブルミーニングの単語を使っていて、なかなか難しい。ザクロgranadaは手榴弾のことでもあり、ホルヘはこれを投げる格好をしながらこの部分を歌う。そしてフランスの通貨であるフランはfranco、つまり総統と同じ名のだ。この部分は2番では「フランコとは暮らせない」と訳されていて、それが歌のタイトルにもなっているのだけれど、

他にも気になったところがあったような気もするが、はっきりとは覚えていない。ともかく、ゴヤ賞の楽曲賞を受賞したこの印象的な歌は、そういう多義性をうまく利用した抵抗の歌としての機能を果たす。解説は蛇足ではないと思う。